その時元気のジーンズのポケットで携帯が鳴った。
はっとして、元気は慌てて携帯を取り出したが、表示されているのは江川という文字。
『今、東京?』
「おう、昼に着いた」
ちょっとガッカリしている自分に苦笑しながら、元気は答える。
『俺んとこ、くればよかったのに』
「兄貴んちにいるんだ」
『あ、そか。そだ、二次会、お前も来るよな? もうメンバーに入ってるから』
「え、おい」
『わり、これから会議なんだ、じゃ』
「ちょ……」
切れてしまった携帯をしばらく見つめてから、仕方なくポケットにしまう。
出席と返事を出した時には、披露宴が終わったら、その頃は多分東京で仕事をしているだろう豪と連絡をつけて会おうか、などと思っていた。
井上美奈子との熱愛報道からかもしれない、何だか思惑と違う方へ違う方へ、ことが運んでいく気がする。
何で、連絡よこさないんだよっ!
豪からの連絡はもう五日ほど途絶えていた。
店に電話をしてきた豪を怒って電話を切ってからである。
だったら自分で電話をかければいいとは、重々わかっているのだが、なかなか実行に移せない。
「あら、もういいの? おかわりは?」
張り切って作ってくれた詩織の手料理は、冷しゃぶサラダもラタトューユもうまかった。
だが、胸に何か引っかかっているようで、冷たいビールさえスムースに入っていかない。
「もう、充分いただきました。ごちそうさま。ちょっと夏バテかな」
にっこり笑って、元気はお茶を飲む。
「元気、ゲームしよう!」
「ゲーム、ゲーム」
小学校六年生の長男、剛が元気の食事が終わるのを待ち構えていたように腕を引っぱる。
四年生の護も兄の真似をして逆から元気の腕を引っぱった。
「だめよ、元気さんは明日大事なご用があるんだから忙しいの。あんたたち、宿題は終わったの?」
詩織の助け舟にほっとした元気は、「ってわけだから、今夜はだめ」と剛と護の頭をぐりぐり撫でる。
「俺、ちょとコンビニ、行ってきます。」
不服そうな顔を向ける兄弟から逃れ、元気は兄の家を出る。
意を決して豪に連絡を取ってみようと思ったのだ。
兄の家の中では落ち着かない。
いや、意を決するほどのこともないはずなのだが。
時間は午後九時。
仕事かもしれないが、それなら留守電にメッセージだけでも入れておこう。
元気は豪の番号を呼び出し、タップする。
コール音が三回ほどした時、つい元気は切ってしまう。
「俺、何やってんだ……たかが電話するくらいで……」
再びコールする。
そして三回ほどコールした後、声が聞こえた。
『はい、ご用件はなんでしょう?』
一瞬、さーっと血の気が引いていく気がした。
『もしもし?』
元気は再び電話を切ると、すぐに電源をオフにしてしまう。
明らかに女の声だった。
どうやら、想像した通りにことが運んでいるらしい。
からだが動かない。
足が一歩も前に進まない。
思わず夜空を見上げて、大きく息をつく。
頭上にある満月が妙に明るい。
何だか笑えてしまう。
東京の月って、こんな明るかったっけ?
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