「まあな。しかし、今夜はまちごうたな。ジャージに黒縁メガネで来なあかんかった」
「は?」
良太は千雪の顔を見て、小首を傾げる。
「こんだけわけありなセレブや俄かセレブが集っとるんや、何が起こるかわかれへんやろ? 名探偵がおらんと話にならん」
「ああ、はいはい、ですよねえ」
脱力した良太を見て、「おま、またそうゆう、人おちょくりよって」と千雪は眉を寄せて抗議する。
「別におちょくってなんか。俺は工藤さんについてきただけだし、美味い物食べられればいいんで、セレブとか、俺は関係ないし。あ、これウマぁ」
良太は齧りついた肉をしっかり堪能する。
「あら、良太ちゃんじゃない! 久しぶり!」
いきなり、声をかけられて良太が振り向くと、理香が立っていた。
五所乃尾流華道家元の娘、五所乃尾理香、アメリカの富豪と結婚したが数年後に離婚、世界中を飛び回って、五所乃尾流の広報活動をしている、と言えば聞こえはいいが、一年の半分はセレブらと一緒に優雅なパーティ三昧で暮らしているらしい。
黒いシックなドレスにサンダルを履いた理香はクールな美貌にシニカルな微笑を浮かべている。
「あ、どうも」
良太は皿に置かれた串焼きの肉をとりあえず食べてからぺこりと頭を下げる。
「おんや、良太ちゃんじゃないか」
理香の後ろから声をかけてきたのは京助の友人の速水だった。
「速水さん、お久しぶりです」
この男は犯罪心理学者で、京助と同じT大で准教授をしている。
実のところ良太はこの二人はあまり得意ではなかった。
派手で遊び好きで、何より、千雪もあまり好きではないらしいことが、良太にもわかっている。
「名探偵もこんなところにいたのか? 超古い別荘にせっかくセレブが集ってる、探偵小説のネタには持ってこいだよな?」
「それやね、ジャージと黒縁メガネで登場せなあかんかったて、今良太と話とったとこですわ。ああ、そや、最初の犠牲者は、えせ心理学者のセンセ、言うんがおもろいかもな」
速水と千雪にとっては、嫌味の応酬が日課のようになっているようだ。
「ほう、そりゃいい。次はお前、バツイチの派手な華道家ってやつだぞ?」
速水が理香に言った。
「あら、あたし? ついに小説デビュー?」
むしろ理香は喜んでいる。
「え、理香さんて華道家なんですか?」
そこに良太が口を挟んだ。
「あら、そうなのよ。これでもお花生けたりするの。見えない?」
「はあ、全然。人生楽しく遊び過ごしてる人だなとか」
直球な発言に理香は笑い出した。
「やだ、この子、大好き! 超ダイレクト!」
「なるほど、さすが千雪ちゃんの類友だ」
速水も笑いながらそんな科白を吐く。
「類友はお二人ちゃいます?」
千雪がさらに言葉を返した。
「類友って、俺、千雪さんみたく、傍若無人なことしませんよ」
「俺が傍若無人みたいな言い方やんか」
「いやそう言ってるんすけど」
「俺の何が傍若無人や? 裏切りよって!」
そんな二人のやりとりが速水も理香も面白いらしい。
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