「京助さんと千雪さん、あれって、双方横暴でもどっちかっていうと、京助さんの方が弱いよな、惚れてる分」
一見して京助の傲慢さに千雪が振り回されているようで、その実、どちらかというと千雪の方が振り回しているようだ。
「まあ、しょうがないよな、惚れてるんだから」
良太が風呂から出ると、工藤は言った通りソファで寛ぎながら、ちびちびやっていた。
昨日今日、あまり電話もかかってこないので、工藤にしては珍しくゆったりとした時間を過ごしている。
「風呂、今湯を張ってます」
良太はバスローブを着て頭をタオルでこすった。
「匂いはとれたか? 勝手にやってていいぞ」
「はい」
いつもより緩慢な動作で工藤は立ち上がり、風呂に入っていった。
良太も少し冷酒を飲み、美味そうなキュウリの梅肉和えを食べると、さっぱりとした酸っぱさが口の中に広がった。
「うまあ……」
俺もそろそろ大人の飲みがわかってきたかな、などと呟きながら二、三杯飲んだところで、知らず船をこぎ始めた。
良太が目を覚ましたのは、けたたましい杉田の朝食コールのせいだった。
「あれ、俺、いつの間に」
身体を起こした良太は、知らないうちに朝になっている部屋を見回した。
バスローブのまま、ちびちび日本酒をやっていたのは覚えているが、ベッドに入った記憶はない。
え、工藤が連れてってくれた?
良太は裸でバスローブは椅子の背に引っ掛けてあった。
バスルームから出てきた工藤は、ぼんやりベッドの上で座っている良太に、「起きたか。メシだぞ」と笑った。
今日もポロシャツにデニムというラフないでたちで、良太にはスーツじゃない工藤はたまに新鮮な気がした。
工藤が出て行ったあと、やっと起き出した良太は、ざっと顔を洗い、身支度を済ませると、階下に降りて行った。
コーヒーを飲んでいる時にラインにメッセージが入った。
千雪からで、ランチする? と聞いてきた。
「えっと、十一時くらいに、じゃ、スーツ見てきます」
「ああ、行ってこい」
良太が工藤に声をかけると、新聞を読みながら、工藤は適当な返事をする。
良太は、千雪に、了解です、とラインに返し、ポールスミスでスーツを見たいと告げた。
食事の後良太は別荘に置いてあるパソコンでデスクワークをこなしていたが、しばらくすると工藤が傍を通りしな、良太の前に会社用のカードを置いた。
「俺はこれから昼寝する」
「おやすみなさい」
工藤はボソリと言うと、階段を上がっていった。
ちょっとは休む気になったみたいだな。
工藤の邪魔はしたくないし、一緒の空間にいるだけでいいか、と良太は思う。
工藤の背中を見つめながら、良太は笑みを浮かべた。
「こちらはいかがでしょう?」
スーツを買うために工藤の車を借りてショッピングプラザに出向いた良太だが、どれがどうとか言われても今一つピンとこない。
「えっと、そうですね……」
スタッフにいくつかスーツを見せられた良太は小首を傾げ、苦笑いした。
「どうぞご試着してごらんください」
「はあ……」
ファッションセンスは、自慢じゃないが、ない。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
