とにかくフィッティングルームに入ろうとした時、「良太」と呼ばれて振り返ると、千雪と京助が立っていた。
京助の出現につい怪訝な顔をする良太に、「スーツやったら京助にみてもろたらええ」と、千雪が言う。
大体、昔は普段使用のスーツなど大手量販店の二着いくらとか、スラックス一本おまけつきとかいうのを買って、くたびれるまで着ていた良太である。
それが、俺の秘書が安物のつるしなんか着るんじゃない、との工藤のお達しで、工藤御用達の店で何着か誂えたスーツは、体にしっくりと合って着心地もいいのだが、高級ブランド店など、良太は自分で入る気にもならない。
以前、高級ブランドの一つミランドラが銀座に出店した際、これもそのお披露目パーティに行くために、工藤に二、三着買ってこいと言われ、時間もなかったのでスタッフに勧められるまま購入したことがあるが、以後そんな高級スーツはクローゼットの奥にしまわれている。
「試着する前に、お前、自分でワンセット選んでみろ」
これだからこいつは嫌なんだ、と良太は心の中でブツクサ呟き、京助に胡乱な目を向ける。
えらそうで、上から目線だからついつい反発精神が頭をもたげてくる。
まあ、大抵、京助の言っていることは正しかったりするので、文句も言い難いのだが。
言い方の問題なんだと思うぞ。
良太が好きそうな色の上下と、タイを選ぶと、京助がのたまった。
「お前、ほんとにセンスない。それでよくプロデューサーやってるな」
あんだにいわれるすじあいはない!
と言いたいところを良太はぐぐぐっと我慢した。
隣で千雪はくすくす笑っているし。
「今のと、最初のと、二番目のだな」
計五着もフィッティングさせられて、選んだ三着とカフス、タイを良太は購入した。
領収書を見せられてその金額にゲッとなったものの、気にするのは良太くらいで工藤も京助もどうでもいいという感覚だ。
「自分の好きな色と、自分に合う色は別物って場合が多い。もっと自分を客観的に見てみろ」
はいはい、確かに大正解なアドバイスをありがとう、だ。
店を出ると、「じゃな。今夜は七時までには来た方がいいぞ」と言い残して京助は帰って行った。
「え、ひょっとしてわざわざこのために来てくれたとか?」
だったら心の中であれ文句を言ったりして申し訳なかったかと良太は思う。
「俺よりええやろ思て、呼んだんやけど、あいつパーティの準備あるし」
「また京助さんが仕切るんですか?」
「いや、藤原さんひとりやと大変やから、忙しくない時はいつもこの手の大きい宴会は京助が一緒に準備しよる」
「へえ、普通、主一家がそこまでしませんよね?」
「藤原さんのことガキの頃から見よう見まねで勝手に習得して、京助、下手すると結構ええバトラーやりよるで。たまに公一に教育したりしてるし」
「はあ」
「あいつ、興味があることには深く突っ込むたちやから」
良太は購入したスーツを車のトランクに入れると、千雪を乗せてランチに向かった。
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