「ただ今帰りました~」
別荘に着き、声をかけながら中に入ると、キッチンから音が聞こえた。
杉田はキッチンにいるらしい。
「杉田さん?」
「あら、良太ちゃん。お帰りなさい」
「ただ今戻りました。これ、どうぞ。クロワッサンがすごくうまくて」
良太がベーカリーの袋を差し出すと、「あら、うれしい! 『風の家』に行ってきたの? あそこのパン美味しいのよね」と喜んで、手についている小麦粉をぱんぱんと払った。
「あれ、何作ってるんですか?」
「フフ、三時過ぎたらね」
杉田はいたずらっぽく笑い、使ったボールなどをシンクで洗い始めた。
オーブンで何か焼いているようだ。
「おやつですか? 楽しみ!」
「良太ちゃんがいると、作り甲斐があるわね」
キッチンを出て、先ほど購入したスーツの入っている袋を下げると、良太は二階へと上がった。
ドアをそっと開けると、部屋は静かで、工藤はベッドに横たわってまだ眠っているようだった。
良太は音をたてないように買い物袋をソファに置くと、また出て行こうとした。
「買ってきたのか?」
抜き足で出て行こうとした良太は、工藤の声に振り返った。
「あ、すみません、起こしちゃいました?」
「ああ、もう起きる。スーツ、出してみろ」
工藤は身体を起こして、ベッドを降り、部屋履きを履くとバスルームに入って行った。
良太は背負っていたバッグを降ろし、財布から、工藤に預かっていたカードを取り出した。
それから、買い物袋に入っていたスーツを出して、隣のベッドに並べた。
「左のにしろ。タイはそれでいい」
「はい」
チャコールグレイのスーツに青を基調としたカラーブロックのタイ。
ちぇ、京助さんがいっちゃんいいって言ったやつと同じってのが面白くないけど。
「あ、これ、ありがとうございました」
カードを差し出すと、工藤は受け取ってポケットに入れた。
そんな工藤をぼんやり見ていた良太は、千雪から知らされた工藤の母親の話が蘇った。
確かに前に工藤が言ったように、自分は幸せなヤツだと良太は思う。
「何だ?」
「いえ、杉田さんがさっきお菓子作ってて、三時のお茶に呼ぶんじゃないかな」
途端に工藤はさも嫌そうに眉を寄せた。
「……お菓子……」
その時、まるで会話が伝わったかのように電話が鳴った。
「はい、起きてますよ。わかりました、すぐ行きます!」
杉田からで、お茶をしましょう、という電話だ。
「工藤さん、三時のお茶だそうです」
「……いや、俺は……」
「ダメですよ、杉田さんせっかく作ってくれたんですから」
いいと言おうとした工藤の言葉を良太が遮った。
「ほら、行きますよ」
良太はドア口で振り返って工藤を促した。
苦々しい顔で、工藤は部屋を出る。
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