鬼の夏休み30

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「あ、ありがとうございます」
 良太はさすがに大きなチョコレートプレートを食べた後は胸やけがしそうになって、紅茶をゴクゴク飲んだ。
「明日は何時頃こちらを発つ予定です?」
 杉田は紅茶を良太のカップに注ぎながら尋ねた。
「十時くらいには出ます」
「あら、じゃあ、朝食召し上がっていけますね」
 杉田は工藤のカップにもお茶を注ぐと、またキッチンへと向かった。
 すかさず工藤はまたケーキの皿を良太の方へ押しやった。
 良太は工藤の皿を自分の皿と取り替え、パクパクと食べきった。
「杉田さんせっかく作ってくれたのに、知れたら泣いちゃいますよ?」
「お前が言わなきゃわからないさ。先にシャワー浴びるぞ」
 工藤はのんびりお茶を飲んでいる良太を残して、二階へ上がっていった。
「あら、ぼっちゃん、もういいのかしら」
 何度聞いても、良太は、工藤をぼっちゃん呼ばわりできる杉田さんはえらいと思う。
「シャワー浴びるって」
「そうね、綾小路さんのところの大パーティですものね」
「大パーティ?」
 良太は意外なキーワードに杉田を見た。
「このあたりではそう言ってるのよ。毎年、大抵今頃、こっちに滞在しているお金持ちや芸能人を招いて大きなパーティ開催されるから」
 そんなに有名なパーティなのかと、良太は再確認する。
「はあ、毎年ですか、それは大変ですよね、京助さんたちも」
「気さくな方なんですって? 私はお目にかかったことはないけど、お隣の奥さんがスーパーで見かけたらしくて」
 まるでアイドルの話でもするように、杉田は楽し気に話す。
「気さくと言えばそうかな」
 どちらかというと横暴、お山の大将的なんだけど。
 とは思うものの、杉田のイメージを壊す必要もないだろうと良太は敢えて言わなかった。
「ケーキもうひとついかが?」
「あ、いや、ちょっと俺も用意しないと。美味しかったです。ごちそうさまでした」
「そうお? じゃあ、冷蔵庫に入れておくわね」
 一つ半プラスチョコレートプレートなんかまで食べちゃって、これ以上食べたらさすがに俺もちょっと無理。
 何とか理由をつけて良太も上に上がった。
 車で工藤の別荘を出たのは六時半を回った頃だった。
 良太はタイが思うように結べず、だが時間もおしていたので、もういいや、と慌てて階段を降りたのだが、深みのあるスチールグレーのダンヒルのスーツで待っていた工藤が良太のタイに気づいて、黙って結び直してくれた。
 前にもそんなことがあったが、タイを結んでくれたりする工藤の指に良太は妙にドギマギしてしまう。
 車を回す時もまだドキドキがおさまらず、何やら頬まで赤くなっているのを工藤に悟られたくなくて、良太は無暗にフロントガラスの向こうを睨み付けた。
 綾小路の別荘に着くと、門の前には一人お仕着せを着たスタッフが立っていて、車に近寄ってきたのでパワーウインドウを開けると、お名前をと聞かれたので、良太は工藤と広瀬だと答えた。

 


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