鬼の夏休み31

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 門が開いたので、良太は車をゆっくりと進めた。
 昨夜と同様車寄せでは藤原とスタッフが出迎えてくれて、良太はスタッフにキーを預けた。
 その時、何かしら引っ掛かりがあるような気がして、一度振り返ったが小首を傾げつつ、藤原に案内されて工藤とともに中に入っていった。
 ホールからリビングへと扉が開かれ、二月にのんびりスキー合宿した屋敷内は、スーツやドレスをまとった紳士淑女が所狭しと集っていた。
 何かのイベントかアイドルのコンサートみたいだ。
 良太は通り過ぎた女性のきつい香水にむせ返りそうになった。
 紫紀と小夜子は昨夜とは打って変わって、かっちりとした黒のスーツと黒のイブニングドレスで二人を出迎えた。
「連日ご足労頂いて恐縮です。後ほどお話を。良太ちゃんもそれまで美味しいもの食べて待っててください」
 紫紀はそう言いおくと、二人は新たな客に挨拶に向かった。
 昨日と同様、ホールスタッフが何人かトレーにグラスを乗せて歩いているが、今日はみなお仕着せに身を包んでいる。
 女性スタッフからノンアルコールのグラスをもらった良太は、はっと気がついた。
 ホール内を見回すと、昨夜と同じスタッフの顔が目に入った。
 あの子だ、そうだ、藤原さんと一緒にいた男って、さっきあの子と一緒に外で何か揉めていたやつだ。
 もう一人、年配の男が怒ったような顔をしていた。
 何か気にかかる。
 だが、何なのかわからない。
 口論していたからって、だから何って話だが。
 良太は近くのテーブルにグラスを置くと、「何かもらってきます」とばかりに有名レストランのシェフによるビュッフェへと向かった。
 皿を持って一口大に切ったステーキから始まって生ハム、サラダ、鶏肉のクリーム煮など、順番に取っていく。
「あら、良太ちゃん、今夜も来たの? おりこうさん」
 ちょっとおちょくったような言い草で話しかけてきたのは、今夜は大きくスリットの入った黒いチャイナドレスの理香だ。
「おりこうさんとか、俺もういい年なんですけど」
 良太はきっぱり言い返す。
「あら、そうだった? 大ちゃんくらいかと思ってたけど」
 うっと良太は一瞬言葉をなくす。
 大ちゃんって、紫紀さんの息子の?
「俺こう見えてもう大学卒業して、会社入って数年経ってます」
「そうなの?」
 って、スキー合宿でも会ってるのに、俺、そんなガキに思われてたんだ?
 良太は心の中でガックリする。
「千雪さんの後輩になります。夕べも社長のお供ですって言いましたけど」
 千雪の名前を出せば少しはまともに見てくれるかという期待を込めて良太は言った。
「そうだった? 夕べ酔ってたから。でも可愛くていいじゃない」
 暖簾に腕押しとはこのことだ。
 良太はもう理香に抗議するのをやめた。
「あ、そこのローストビーフ、美味しいわよ。そっちのフルーツトマトとモッツアレラも最高」
「はあ」
 美味しいものならいただこうと、良太は両方とも皿に取ったので皿は一杯になった。
 皿をもう一枚重ね、フォークを二つ取る。

 


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