良太は少しばかり気が気ではない。
戻ると、工藤は年配の男と話していた。
「あら、藤田さん」
理香が声をかけると、フジタ自動車社長、藤田が振り返った。
「おや、理香さんじゃないか。広瀬くんも、久しぶり」
「お久しぶりです」
良太は皿を傍らのテーブルの上に置いて、藤田にぺこりと頭を下げる。
やはり財界の大物がこぞって集まってるんだ。
助かった、工藤と理香さん、二人でってことにならなくて。
「理香さん、いたいけな良太ちゃんにちょっかい出さんといてくださいよ」
知った声が後ろから聞こえ、振り返ると千雪が立っていた。
「人聞きの悪い。あたしは工藤さんにご挨拶にきたのよ」
ちょ、千雪さん、いたいけなとか、イタいこと言わないでほしい。
良太はもう一枚の皿に料理を取り分けると早速食べ始めた。
「うん、美味いわ。千雪さん、食べます?」
おそらく舌の肥えているだろう理香が言うのだから、外れはないようだ。
「俺はさっき食うたから、ええ。な、それより、車のキー返してもろた?」
千雪は良太に近寄って、こそっと聞いた。
「え? あ、まだだ。今日はお客さんが多いから?」
「いや、そのために、スタッフ二人つけたんやから。知ってる人に聞いたら、返してもろた人とまだ返してもろてない人がいて」
「え、それどういうことです?」
俄かに妙な話になってきた。
その時キーを預けたスタッフがいるのが見えて、どうやらキーを返して回っているらしいのがわかった。
「すみません、一気にお客様が入ってこられたので、お返しが遅くなりました」
やがてそう言って、若い大学生のスタッフは良太にキーを返した。
「あ、どうもありがとう」
キーを返したスタッフはまた玄関の方へと歩いて行った。
「やっぱ混んでたから遅くなったんじゃないですか?」
「いや…この時間差がちょっと気になる」
千雪は目を眇めてどこをともなく睨み付けた。
「あと、変な話があるんや」
「変な話?」
千雪はさらに良太に顔を寄せると、耳元で囁くように言った。
「どうやらお客さん相手にパパ活仕掛けた子がいるらしいんや」
「ぱ……!!」
つい大きな声を出した良太の腕を千雪は引いた。
「でかい声出すなや」
「って……」
驚いている良太に、千雪は早口で言った。
「どうやらそれに乗ったお客もいてたみたいで」
「はあ………まあ、これだけ財界の重鎮が集っていれば、誰に声をかけても乗ってくれば儲けものって感じなんじゃ………」
「京助も声をかけられたらしいわ」
そういう千雪の形相は険しかった。
「まあそれで分かったんやけどな、さっきの大学生と一緒にいた小谷って女の子」
「はあ? 何か妙な符号ですね」
良太も気になり始めた。
「まあ、ここで小説やったらや、車のキーとくれば、車の窃盗やな」
千雪の言葉に良太はちょっと表情を強張らせる。
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