浜村と渡良瀬が立ち去ると、紫紀が言った。
「お疲れ様です。工藤さんも良太ちゃんも、肩凝ったでしょう? ちょっと奥で一服されてはどうですか?」
工藤はすぐにも帰りたそうな気配だったが、「ありがとうございます」と先に良太が答えたので、眉を顰めながら工藤も良太の後に続いて奥の応接間に通された。
「お、良太、工藤さん、お疲れ様です」
中にはタブレットのキーボードを叩いている千雪がいた。
「お前ら、さっきから何をこそこそとやってたんだ?」
工藤が険しい顔で千雪に問いただした。
やはり工藤は気づいていたようだと、「実は車の窃盗犯を捕まえたんです」と良太が答えた。
「車の窃盗犯?」
聞き返した工藤に、千雪が説明した。
村野と小谷が外にいた主犯の窃盗犯らとつるんで、セレブが集る盛大なパーティにもぐりこみ、めぼしい車のスマートキーから電波を盗んで車を動かし、裏門から盗み出していた、と一通り事情を聞くと、「捕まえたって誰が捕まえたんだ」と工藤は尋ねた。
「俺のダチとその仲間なんですよ。まあ、いわゆるバイクのテクと腕に自信がある連中がいて、京助が捕まえた連中を警察に引き渡しに行ってるとこですわ」
それを聞くと工藤はさらに難しい顔をした。
「昼日中、この別荘の裏門あたりで村野と小谷と妙なおっさんが何か口論してて」
「それでどうして車の窃盗につながったんだ?」
「そこは一応ミステリー作家の妄想が膨らんで、それがバッチリ合うてしもて」
千雪がふふんと笑う。
「そこがさすが名探偵ってとこですよね」
良太が感心して持ち上げる。
「まあいいが、危ないことはするなよ」
工藤が釘を刺す。
「大丈夫ですて。危ないことは京助やダチにやらせますよって」
しれっと言い放つ千雪は強かというしかない。
やがて公一がコーヒーを持って現れた。
三人分のコーヒーをテーブルに置くと、「お酒がよろしければお持ちしますが」と公一は工藤に尋ねた。
「いや、コーヒーを頂く。ありがとう」
実のところ工藤は、良太が小谷と笑いながらどこぞに消えたのを見て、何なんだと不快に思っていたのだが、そういうことかと心の中で納得した。
しかし、浜村と渡良瀬への対応も卒なくこなし、理香に絡まれてもうまくあしらったりする良太を、退屈な浜村や渡良瀬との話を聞いているふりをしながら、生意気に、と工藤はイラつきながら見ていたのだ。
実際、紫紀の紹介でなければとっくにバックレていたはずだが、本音を言えば自分の方が良太より子供っぽいマネをしそうになっていた。
勝手気ままな若手タレントの風邪のお陰でスケジュールに見事穴が開き、マネージャーを怒鳴りつけたものの、お陰で、誰にも邪魔されないだろう二日間がぽっかり空いたのだ。
一応、紫紀に誘われていたのを理由にここ軽井沢に来てみれば、杉田さんには相変わらずぼっちゃん呼ばわりされ、あげくにバースデイケーキと来たものだ。
紹介してくれた紫紀には悪いが、本当に浜村たちとの話は退屈だった。
これがまたスポンサー契約を結ぶということにでもなれば、また話は別だが、いずれにせよ、工藤を値踏みしていたあの渡良瀬という男はあまり好きになれない。
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