鬼の夏休み5

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「田園の方はどうだ?」
 車が走り出したと思うや、今度は赤信号で停まると、工藤が人気俳優宇都宮俊治主演のドラマの進捗状況を聞いてきた。
「いや、順調、ですよ。月末あたりから北海道ロケになってますけど、行けそうですか?」
「この分だと無理だろうな」
 はいはい、そうでしょうとも。
 それで俺に丸投げってことですよね。
 まあ、さっき怒鳴り散らしていた相手は、今工藤が関わっているドラマの準主役で、ヒロインの彼氏という役どころの若手俳優だが、どうも進捗状況がよくないようだ。
 このドラマも、長年一緒にやってきた制作会社の社長が昨今の不景気で皺寄せを食らって自死した直後、少しでも制作会社に仕事を回そうとしゃかりきになってそれまでの工藤なら断っていただろう仕事も受けたりした、そのうちの一つで、その頃の工藤はただでさえ万年人手不足で仕事は飽和状態だったのにも関わらず、以前にも増して走り回っていた。
 さすがの工藤もそんな状況が続き、良太も工藤の手助けをしようと動いたりしてオーバーワーク気味だったため、映画「大いなる旅人」の撮影も始まったこともあって、最近少しは仕事量を抑えるようになった。
「からくれないに、はどうなってる?」
「そっちも順調です。本谷くん、頑張ってるし。相変わらずマネージャーいなくて、アッチの事務所に頼むのもめんどくさいから、こっちからついでってことにしてスタッフさん一人専属で、やっぱ一人で動いている脇の俳優さんたちと一緒に送迎してもらってます」
 本谷の送迎については工藤には報告していなかったが、これは正解だと良太は思っている。
「それでいい」
「本谷くん、半端なく人気急上昇ですよ。それも女子小中高生から女子大生、主婦層まで幅広いんで、特に若い小中高生ってどういう行動にでるか予測つかないですからね。あ、だからようやく、タレント御用達のオートロックのマンションに引っ越したみたいですよ」
 工藤はフンとほくそ笑む。
「ミタは昔から数人の売れっ子以外その他大勢扱いだ。ここのところ所属タレントの不満が噴出しているらしい」
 『からくれないに』は推理作家小林千雪の小説が原作のドラマで、今回出演している本谷和正は大手芸能プロダクションであるミタエンタープライズの所属俳優だ。
「やっぱね~。タレントたくさん抱えてる事務所はもっと大手でもありますけど、あんな極端な待遇じゃ不満も出ますって」
 本谷のマネージャー浜野が、本谷のファンが溢れたせいで良太が怪我をしたことに対して見舞金を持ってきた時のことを思い出して、良太は眉を寄せた。


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