明かりが灯るころ3(ラスト)

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 かろうじて炬燵はちょっと隅に追いやられていたにせよ、捨てられずにあったことだけは、許してやってもいい。
 何が頭にくるって、勝手に部屋中変えやがって。
 まあ、普通、喜ぶべきなのかもしれないが。
 けど毎日小公女セーラになった気分でドアを恐る恐る開ける気分になってみろって。
 第一、 工藤が何故そんなことをしたかはわかっている。
 パイプベッドなどではそのうち壊れるから、という理由だ。
「俺が寝るのに何で壊れるんだよっ!」
 口にしてから良太は一人頬を赤らめる。
 ナータンのトイレを掃除し、ご飯をやると、とりあえず弁当に取り掛かった。
 もちろんキッチンに置かれたこじゃれたテーブルじゃなくて炬燵でだ。
「やっぱりこんな寒い日は風呂に限るよな」
 食べ終えると、バスタブに湯を張って、映画のシーンならワイングラスだろうところを、残っていた吟醸酒をグラスに注いで持って入ることにする。
 ちびりちびりと飲みながら湯に足を入れて身体を伸ばすと、心地よさに身体から力が抜けていく。
 窓から外を見れば、暮れなずむ街の明かりになかなか風情が感じられる。
「ちぇ、いいじゃないかよ」
 ガラスの向こうに目をやりながら、沢村と佐々木のことを思い出していた。
 あいつの一生懸命さに、きっと佐々木さんも押し切られたんだろう。
 どうやらほんとうまくいってるみたいだし、このままずっと波風立たないでいられたらいいよな。
 互いに相手が男だからか、やはり考えてしまう。
 まあ、少なくとも俺と工藤よりは大丈夫そうだけどな。
 沢村みたいに「好きだ」なんて口にしてみたところで、佐々木さんならまだしも、工藤なんて暖簾に腕押しって感じで、俺のことなんか、へとも思っちゃいないって感じ。
「ま、しょーがないか」
 良太は今頃くしゃみでもしているかもしれない工藤の顔を思い浮かべながら独り言を言ってみる。
 ま、あんな人だから、しょうがない。
 好きなのはどうしようもない。
 ほろ酔い加減でぼんやり宙に目を向けていた良太は、不意に鳴った電話の音にもう少しでグラスを落っことしそうになる。
「はいっ……! ……お疲れ様です」
「俺だ。そっち、変わりはないか」
 慌てて電話に出ると、たった今考えていた工藤の低い声が良太の耳に流れ込んでくる。
「あ、はい、今日は大和屋の着物ショーでしたが、つつがなく盛況のうちに終わりました。展示会も大成功のようで、大和屋さんも喜んでおられました」
「そうか。また、連絡する」
 まったく仕事の連絡のみで、すぐ電話は切れてしまう。
「ちぇ、愛してるとか好きだとか、そんな言葉は別にいらないけどさ。何かほかにあるだろ!」
 思い切り怒鳴ってみるが、逆に胸にぎゅっと甘い痛みを覚える。
 そして耳朶に響いた工藤の声を思い出した途端、身体の芯が熱を持ってしまう。
「あんのクソオヤジ……バッカヤロ………」
 仕方なく良太は下肢に手を伸ばす。
「……っ…工藤……っ!」
 唇に名前を乗せた途端、それはあっけなくはじけた。
「ああ、情けねぇの……」
 脱力した良太は思わず自分を嗤った。
 

 
 数日後、朝の便で帰国するという工藤を迎えに、良太は車で羽田に向かっていた。
 到着ロビーにサングラスをした大柄な男が立っているのが見えた。
 男は明らかにイラついて、一般人とは思えないオーラを撒き散らしていたが、良太には駆け寄っていく自分に、あるはずのない尻尾を思い切り振っているのが見えるような気がした。 


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