忙しいばかりの良太だったが、小夜子が、青山プロダクションにとっては大事なスポンサーである東洋商事社長で次期東洋グループCEOと目される綾小路紫紀の妻だということで、良太は取るものとりあえず会うしかないという判断をせざるを得なかった。
最初、千雪と小夜子、それに良太の三人で会い、千雪が仕事で帰るのと入れ替わるように佐々木と浩輔が現れた。
夜一緒に飲むことにしていた沢村が定宿とするホテルを指定したのは、良太の時間の都合に合わせてもらった形だった。
その時、ちょうど沢村がロビーを通りかかったことなど良太は知る由もなかった。
考えてみればそれもあり得ることだったのだが。
出会いは偶然の産物なのだろう、佐々木が打ち合わせのあとホテルのバーに行かなければ、或いは沢村と飲んでいた良太が社長の工藤に呼び出しを受けて帰ったために、バーに行って飲みなおそうなどと沢村が思わなければ、二人は出会うこともなかったのかもしれない。
事の顛末を聞いたのは、三日、良太がプロデューサーとして名を連ねているスポーツ番組『パワスポ』の新春特番に沢村が出演し、そのあと二人で飲んだ時のことだ。
「あのプロジェクトの背後にそんなからくりがあったなんてな」
しかもどうやら二人のつき合いはひどくもつれたようで、沢村が年末のクソ忙しい時に酔っ払って良太に電話をかけてきたのは、沢村が振られた時だったらしい。
佐々木とは何度か打ち合わせで会っていたし、プラグインのクリスマスパーティには、オフィスのスタッフである直子と二人で現れて、てっきり二人はつき合っているものだとばかり良太は思っていた。
「どおりでいきなりパーティに行くとか言い出したわけだ。あの沢村をあそこまで夢中にさせるなんてな、確かにすんげくきれいで素敵な人だけど」
佐々木を頭に思い浮かべて良太は一人頷いた。
にしてもあんな沢村を見たのは初めてだった。
「あのやろう、このままじゃ年が明けても浮上できないとか番組に出られるかわからないなどと脅しやがって。何とかあの後うまくいったってわけか」
四日、着物ショーに足を運んだ良太が佐々木に挨拶をした時、さりげなく傍らに立つ沢村が話しかけてきた。
沢村にそう言われて二人を見るとなるほどと思う。
じっとみつめていたら佐々木がこちらを見たので、良太は思わず目をそらした。
ショーが終わってからギャラリーの作品展を一通り見終わると、良太はホテルを出た。
地下鉄に乗り乃木坂で降りて階段を上がった途端、びゅうと冷たい風に煽られた。
冷たい空気に頬がひりひりする。
コンビニで弁当を買って、明かりが灯り始めた街のペーブメントを足早に会社まで辿り着く。
仕事始めは明日だから当然会社には誰もいない。
余計に寒々しくなってくる。
「お疲れ様です」
警備員の岸谷さんとちょっと言葉をかわして、良太はエレベーターに乗った。
会社の七階に良太の住まいがある。
もともと工藤の部屋だったのを、社員寮という名目でほとんどただのような金額で借りているのだ。
そしてドアを開けた途端、またぞろ年末に工藤がやらかしたその事実を確認させられることになる。
クリスマスに帰ってみると自分の部屋がまるで変わり果てていた。
安物のパイプベッドはキングサイズの立派なベッドに換わって、でんと部屋のど真ん中に陣取り、クローゼットやらデスクやら落ち着いたダークブラウンのシックな家具が並び、絨毯までもがふかふかになっていた。
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