工藤と二人で朝食を取っていると、九時を過ぎたところで小笠原がレストランに現れた。
「あれ、工藤さん、何でいるんだよ? ってか、良太、九時に待ち合わせって言ったじゃんよ」
すたすたやってきた小笠原は、良太の横にすとんと座る。
「ついでにCMの仕事が入った。十一時にSI製薬、行くぞ」
にこりともせずに工藤が言った。
何だ、やっぱり仕事絡みなんだ。
良太は少しだけガッカリする。
小笠原が一夜だけの恋人とか何とかぬかしていたから、ちょっとでも気にして来てくれたとかじゃないんだ。
「ええ? これからオフじゃないのかよ。良太と遊んで帰ろうと思ったのに」
むすっとした顔で小笠原は文句を言った。
「しゃんとしろ。公共の場で、これ以上無様を晒すな」
「へいへい」
工藤に窘められると小笠原も多少居住まいを正す。
工藤と良太が和食を食べていたので、小笠原も美味そうだと言って和食をオーダーしたが、食事が並んだのは九時二十分頃になった。
とっくに二人は食べ終えていた。
「十分で食えよ」
工藤はそう言うと立ち上がった。
「ええっ?!」
小笠原は情けない顔で工藤を見上げた。
「ラウンジで待ってる。四十分には出るからな」
容赦なく言い渡すと、工藤は良太を促してレストランを出た。
二人は部屋に戻ると荷物を持ってチェックアウトに向かう。
「もう五十分だ、俺、ちょっと見てきます」
まだ小笠原が現れないので良太が立ち上がると、「いい、行き違いになるだけだ」とソファに腰を降ろしたまま工藤は言った。
やがて十時になろうという頃、ようやくカートを引いた小笠原がやってきた。
「遅いぞ」
すかさず工藤が言った。
「だって、まだゆっくりしてられると思ったから」
言い訳をしながらも確かにさっき着ていたスーツより色味の深いグレーのスーツに一応着替えている。
仕事という意識はあるんだ?
良太は心の中で小笠原を揶揄する。
タクシーのトランクに荷物を入れ、小笠原と良太を後部座席に座らせると、工藤は助手席のドアを開けて、SI製薬の本社ビルへと運転手に指示した。
窓から大阪の街並みを見ながら、どうやら小笠原は何も気づいていないらしいのに、良太はほっとしていた。
そうだ、いつぞやの夜の意趣返しだぜと、良太は少しばかり溜飲が下がる思いで笑みを浮かべた。
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