何だよ、と良太は小首を傾げつつ、バスタブに湯を張った。
服を脱ごうとした時、またドアのチャイムが鳴った。
「ったく、しゃーないな、今度は何の用だよ!」
てっきり小笠原だと思い、バン、と開けて、え、と思うと、手で口をふさがれる。
「声を出すなよ、隣に聞こえるぞ」
突然現れた工藤に、良太は口をぱくぱくさせる。
「ど、どうしたんですか?」
「夜が寂しいと、仕事もうまく行かなくなっちゃうんだろ?」
小笠原が喚いていた通りの科白をかませて、工藤は良太を引き寄せる。
前にも工藤は良太が一人でいる時に、いきなりホテルにやってきたことがあった。
ひょっとして、小笠原のゆってたこと心配して?
それなりに、工藤も俺のことで妬いてるとか?
そう、やっぱり割りと長いこと離れていたからか、工藤にちょっとでも触れられると、良太は瞬時に火がついてしまう。
「…ひえ……」
良太の口から思わず声が漏れる。
と、また、ドンドン、ピンポーン、という音に良太は体をすくませた。
「良太ぁ、もう寝ちまったかぁ?」
能天気な科白がすぐ近くで聞こえるが、不埒なオヤジの手はもう誰にも止められるものではなかった。
翌朝、携帯のアラームで目を覚ました良太は、伸びをしてぼんやりとベッドに起き上った。
なかなか頭がちゃんと目を覚ましてくれない上に身体が気だるい。
夕べ飲み過ぎないようにしてたんだけどと思いつつ、何だか寒い気がした良太が、あれ、何で裸なんだろうなどとふと思ったその時。
バスルームのドアが開いて、良太が非常によく知っている男が出てきた。
「早くしないとメシを食いっぱぐれるぞ」
すっかり身支度を整えた工藤に言われてようやく昨夜のことが一気に舞い戻った。
うっわー、何で自分だけちゃっちゃかすぐにでも出かけられるような顔しちゃってんだよ、このオヤジは!
良太は慌ててバスルームに飛び込むと、頭からシャワーを浴びた。
そうだった、夕べ小笠原が来たかと思ってドアを開けたら、オヤジに強襲されちゃったんだ。
ってか小笠原隣だぞ?
よもや………………。
いやいや、こんな星いくつってなホテルだ、壁だってそう薄くはないだろう。
ってか何も、そんな危なそうなマネしなくたって、いいじゃんかよ! 工藤のやつ!
グダグダと頭の中で考えながらシャワーを浴びて腰にバスタオルを巻くと、頭をざっと乾かして鏡を見た良太は、そこでうっとまた固まった。
胸のあたりとか赤い斑点が………。
かあーっと頭が沸騰しそうになりながら、良太は首のあたりとか確認したが、辛うじてシャツで隠れる以外のところには見当たらないと思われた。
バスルームを出ると、工藤は余裕のよっちゃんで窓際の椅子に腰を降ろして新聞を読んでいる。
持ってきたバッグの中から下着やシャツを取り出してあたふたと身繕いすると、夕べのうちにクローゼットに掛けておいた替えのスーツを着る。
ここでいつも時間を食うのが、なかなかうまく結べないネクタイだ。
「半になるぞ」
言いながら工藤が新聞を置いて立ち上がった。
「あ、はい」
良太は適当に返事をしながら鏡の前でネクタイと格闘する。
すると後ろに立った工藤が腕を回して、「いいから手を離せ」と言い、ネクタイを結び直す。
昨夜の所業と比べれば、大したことでもなさそうなはずなのに、工藤に後ろから抱き締められているかのような状況に、良太はまたぞろ頭から湯気が出そうに硬直した。
「ほら、行くぞ」
きれいにネクタイを結んだ工藤は良太の頭にポフっと手を置いた。
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