ACT 2
「え、小杉さんが倒れちゃったんですかぁ?」
成田に工藤を迎えに行き、オフィスに戻った途端、志村から良太に電話が入った。
「いや、風邪こじらせちゃったらしいんだ。奥さんからたった今、こっちに連絡がきて。ちょっと無理させたからな」
「ええ、じゃ俺が大阪行きかぁ。これからぁ?」
志村の電話を切ると、ついつい良太は口にした。
つまり、大阪で小笠原の主演する映画の試写会があり、その時、スポンサーに挨拶に行かなくてはならない。
まさかマネージャーなしで行かせるわけにもいかないだろう。
小杉が風邪で寝込んだとなれば、残るは良太しかいないのだ。
せっかく工藤、帰ってきたのにな。
まあ、仕事だから仕方ない。
「良太、俺が行ってもいいぞ」
工藤が事情を察して助け舟を出してくれたが、帰国早々、出張していた間にできなかった打ち合わせが三つも入っている。
「社長、打ち合わせがあるじゃないですか、しかも厄介なヤツ。俺、行きますよ」
「お、いいね、良太、じゃ、今夜は大阪デートしよ。美味い店知ってるんだ」
ソファに寝転がって雑誌を読んでいた能天気な小笠原は嬉々としてのたまう。
「あのね、仕事に行くんだぞ? わかってる?」
工藤出なくてもつい眉間に皺が寄る。
「わかってるさ。でも仕事はいずれ終わるし。なんなら俺が今日は良太の恋人になってやってもいいぞ」
唐突な一言に、傍で打ち合わせをしていたアスカと秋山が一瞬、顔を上げて口をつぐむ。
「バッカなこと言ってないで、さっさと仕度しろ!」
くだらないジョークにうろたえることはないんだ。
良太は自分に言い聞かせる。
「何がバッカなことだよ? ああ、俺、男女問わない人だから、も、全然お任せしちゃっていいぜ。ほら、夜が寂しいと、そのうち仕事もうまく行かなくなっちゃうって」
「くだらないことぺらぺら、ぺらぺら、お前のファンが見たら嘆くぞ」
良太は小笠原をせきたてて、オフィスを出た。
会社の人間は、工藤と良太のことを知っているのだが、わざわざ小笠原に実は、なんて言う必要ももないし。
夜はスポンサーの接待で、帰るのは明日になるだろう。
とにかく、とっとと仕事を終わらせれば帰れるのだから。
良太は自分に言い聞かせ、小笠原を乗せて羽田に車を走らせた。
料亭、カラオケ、クラブ。
このご時世によくそれだけ要求するよな、と心の中で愚痴りながら、良太は小笠原を伴って一晩の宿となっているへルトンホテルへタクシーで向かう。
「ラウンジで一杯くらい、いいじゃん」
あれだけ引っ張りまわされて、異様に元気な小笠原はしきりに良太を誘うが、良太は疲れてるからと断って、部屋にこもった。
ばたんとベッドにダイビングして、しばし目を閉じる。
部屋は小笠原と隣同士なので、小笠原は何だかだと理由をつけて、ドアをノックする。
「ああ、うん、じゃあ、明日九時には起きようぜ」
何時に起きるか、わざわざ良太の部屋に来て確認する小笠原を、やっと追い出し、シャワーを浴びる準備をしていると、携帯が鳴った。
「お前な、いい加減にしろよ……え、あ、すみません、小笠原かと思ったもんだから」
思い込みで出た相手は、工藤だった。
「え、はい、終わりました、つつがなく。そちらは打ち合わせ終わったんですか? はい、じゃ、ゆっくり休んでください。はい、この部屋ですか? 一一〇三号室ですけど」
携帯はいきなりぶちっと切れた。
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