「だってさ、良太見てっと、てんで朝から晩まで仕事づけでさ。タレントもやってんだろ? からだ、いくつあっても足りないぜ」
軽く小笠原は言ってくれる。
「タレント稼業はあれっきり。ピンチヒッターで出ただけなんだよ」
お前にまで言われたかない、と思いつつ良太は言った。
「何で? もったいないぜ? 十分いけるのに」
「俺はプロデュースの仕事がしたいの」
しつこく言われて良太は苛っとする。
「ふーん、ま、いいけどさ、とにかく、そんなに仕事づけじゃ、それこそ彼女作るひまなんかないじゃん。やっぱ右手が恋人ってやつ?」
このやろう、勝手なこといいやがって。
「余計なお世話だ。とにかく、もう降りろよ。俺、夕べもあんまし寝てないんだから」
「悪い、じゃ、おやすみっ!」
車を降りた小笠原は、ドアを閉める寸前、また顔をのぞかせた。
「あんましためるとよくないぜ。俺、いくらでも紹介してやっからさ。いつでも言えよ」
「うるさいな、いらねーってるだろ!」
ついに声を上げた良太の怒号も何のそので、小笠原は高笑いとともに、マンションの中に消えた。
「あのやろう、言いたいこと言いやがって」
ようやく会社兼自宅がある乃木坂に戻ってきた良太は、会社の駐車場に車を滑り込ませた。
だが、小笠原のことが頭にくるやら腹が立つやらで、さっきまで眠かった目が覚めてしまった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
警備員と同じ言葉でやり取りをしてエレベーターに乗った。
小笠原のことは、まあ、そんなに悪いやつじゃない、とは認めているのだが。
「恋人ね……」
部屋に落ち着き、猫のナータンにご飯をやりながらぼそっと呟くと、良太はシャワーを浴びて冷蔵庫からビールの缶を取り出した。
「そう言えるんなら、一人、いるんだけどさ、不埒なやろうが」
工藤は今ごろニューヨークだ。
いつぞやちょうどテロのあったその時にも工藤はニューヨークにいて、散々、みんなを心配させた。
今でも遠くにいる時は、何だか不安で、一言電話くらいくれればいいのに、と良太は思う。
だが思っているのはこちらばかりらしい。
ニューヨークに行ってから、工藤から会社には電話が入っても、良太は小笠原の世話で出ていたりするので、いつも鈴木さんの伝言だ。
「まあ、期待はしないけどさ」
工藤は二日後に帰国の予定だ。
早く無事で帰ってくればいい、今思うのはそれだけそれだけだ。
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