いつかそんな夜が明けても5

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    ACT 2
 

 日映のパーティは、週末、老舗のホテルの大ホールで開催された。
 『春の夜の』を撮った野元監督をはじめ、音楽を担当したKIRIYAも顔を見せている。
 日映の創立六十周年記念も兼ねているため、業界の大御所俳優から著名監督、大物芸人や人気アイドル俳優までがこぞって出席していた。
 文化人や財界人の上に政治家の顔もチラホラあった。
 女性陣はここぞとばかりに着飾り、無言のうちに美しさを競い合っている。
 そんな中で目を引いたのは、財界の重鎮東洋グループ次期CEOと目されている、東洋商事社長の綾小路紫紀とともに現れた小夜子夫人である。
 黒地に椿の花をあしらった訪問着をしっとりと着こなした小夜子からは作り物ではない滲み出るような美しさがあって、微笑にすら品の良さが際立っている。
 『春の夜の』の作者で、小夜子の従兄弟にあたる小林千雪は、黒渕眼鏡に地味なスーツというイメージどおりのいでたちで、紫紀の弟の京助がその横にしっかりくっついている。
 工藤も地味目でオーソドックスなダンヒルのスーツで、お仕着せに見えないよう、ブランド物のオーダーメイドのスーツを着せた良太を伴って不承不承やってきたのだが、なるべく目立たぬようにという思惑も空しく、会場に入るなりあちこちから声をかけられている。
 おざなりな返事でその場をやり過ごそうとしていた工藤だが、工藤にとっては歓迎しえない顔ぶれを垣間見、思わず回れ右で引き返したくなるのをぐっと堪えた。
 スピーチに立って心にもない美辞麗句を並べたてるその男の存在が、工藤の心を逆なでする。
 収賄疑惑で政界を引退した桜木元外相の娘婿、桜木史郎代議士だ。
 ここのところ与党の中心的存在としてテレビ画面に登場する回数が増えていた。
 その傍らには妻の美千代がつつましやかに控えている。
 工藤はそのようすが目に入ると反吐が出るほど嫌悪した。
 学生時代工藤と愛し合った桜木ちゆきは、父親の桜木元外相にヤクザの血を引く工藤との付き合いを禁じられて自殺した。
 だがそれは表向きで、それは贈収賄の罪を潔く償ってほしいという父親に対する諫死だった。
 ちゆきとのことは既に過去のことだと、それも工藤はわかっている。
 だが未だに桜木元外相だけでなく、ちゆきのフィアンセでありながら、ちゆきの死でスライドしたようにその妹婿となった桜木史郎、桜木家の人間を許すことはできないのだ。
 胸クソが悪い。
 やはり来なければよかったと、ましてや良太にまた妙な勘繰りをさせたくない工藤は、「良太、早々に出るぞ」と良太の後ろから声をかける。
「あ、はい、わかりました」
 小夜子につかまって、あれやこれや話をしていた良太は、工藤を振り返り、どうやら低気圧なのをかぎつけた。
 アスカと志村の顔もあったが、アスカと目が合った良太は、帰るという合図をする。
 だが間の悪いことに、藤本が工藤を大きな声で呼んだ。
「こっちだ、工藤」
 紹介しよう、そう言って手招きした藤本の横には、工藤ができれば口も聞きたくない相手、桜木代議士夫妻がいた。
「MBC時代からのやり手でね、私が今一番目をかけている男ですよ。桜木先生、今回の『春の夜の』は工藤でなくてはこうはいかなかった」
 藤本の言葉に桜木は、ほう、と口にするが、じっと工藤を見る目は顔の筋肉のように笑いを含んではいない。

 


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