東京へ行こう 1

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 つい口にしてしまっただけだ。
 ほんの数分前までは頭の中にはなかったことなのに。
 だが一旦口にしてしまうと、まるでとっくにそうしようと思っていたかのように動いていた。
 で、気が付くと、JALのファーストクラスで寛いでいるうちに機は成田上空に差し掛かっていた。

    Act 1

 ケンが籍を置く宇宙開発研究所内にある精鋭科学者特別研究所、別名コマンドのクリスマス休暇はスタッフ六人が三人ずつ前半と後半に分かれて取るシフトになっていた。
 二十九日の午後から、前半のクリスマスイブから休みを取っていたマヒンダ、カテリーナ、マイケルと入れ替わって、アレクセイ、ロジァ、ケンが休暇に入った。
 アレクセイはロジァとパリに行くらしい。
「ケン、エアとホテル、おさえといたから。クリスマスプレゼント」
 アレクセイが仕事の帰り際そう言った。
 ケンは覗き込んでいた画面から顔を上げた。
「あ?」
 確かに東京に行くつもりだとは言ったが、まだ具体的にいつ発つとかは決めていなかった。
 これからチケットを取って、ジョーのシッターを手配しなくてはならないな、などとのんびり考えていたケンは、アレクセイが目の前に置いて行った封筒を開けて、「あのやろう、勝手に……」と呟き、一つため息をついた。
 ジャーマンシェパードのジョーは図体は大きいが、ひどく甘えん坊で寂しがり屋だ。
 飛行機に乗る以外なら、連れて行くのだが。
 封筒には東京行きのエアチケットが入っていて、それもはっきり言って知りたくはない金額だろうファーストクラスだ。
 一緒に入っている走り書きのメモにはホテルの名前が書いてあったが、そのホテルが五つ星ホテル以外は考えられないだろうことも推して知るべしだ。
 まあ別にアレクセイは贅沢主義者というわけではないが、それ以外知らないだけだ。
「第一、こないだくれたばっかだろ、クリスマスプレゼント、クロ・デュ・メニルだとか。確かに美味いシャンパンだったけど、値段とか無頓着すぎるんだ、あいつ」
 ケンの養父であるロウエルはもともと富裕な家に生まれたが、生涯結婚はしなかったし、遠い親戚以外身寄りもなく、ずっと屋敷にいた執事のボブや家のことを色々やってくれていたアンジーに遺した分を除いて、一人では広すぎる屋敷や両親から受け継いだかなりな財産をそっくりケンに遺してくれたので、一生遊んで暮らしても十二分にやっていけるほどだ。
 ただし、ハイスクールの校長をしていたロウエルは質実剛健を絵に描いたような人間で、厳しいがきちんと父親の優しさをもってケンを育ててくれたため、ケン自身も贅沢とはそう縁がなかった。
 やがてボブやアンジーが亡くなってからは、さすがに天涯孤独をヒシヒシと感じたが、アンジーが亡くなる前に姪のサラを呼んでくれて、週何回か来て家のことをやってもらえるようになったので、ケンも好き勝手に仕事ができているというわけだった。
 だが、そのサラも六十歳を超え、ジョーの散歩は膝に響くというので、何かの折にはロジァの友人マットにシッターを頼んでいる。
 いつもは広い庭に放し飼いにしているのだから、運動量的には問題ないかもしれないが、散歩を楽しみにしているジョーのためには遊び相手も必要だろう。


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