東京へ行こう 2

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 ロジァを中心に結束しているニューヨークのバイク集団ブラックの一人で、身体のあちこちにタトゥー、鼻から耳からピアスをした長身のマットは、所謂良識ある大人はあまり声をかけたがらないだろう雰囲気だし、言葉も悪いが、部類の犬好きで、もともとロジァがたまに自分の犬の面倒を頼んでいた。
 ちなみに警察はブラックをギャング組織として認識しているようだが、ブラックの面々からすると、冗談じゃないらしい。
 やはり人間外見だけで判断してはいけない、とケンは一人頷いた。
 マットは在宅で雑誌関連のデザイナーをやっていて、パソコン一つあれば泊りも受けてくれる、不愛想に見えて気はいい男だ。
「マット、今から頼んで受けてくれるかな……」
 ケンの杞憂は数分後に携帯に入ったメールで解消された。
 ロジァから既にジョーのシッターを依頼されているが、いつ行けばいいかとマットから尋ねてきた。
 ケンは明日朝から一週間頼みたいと返信し、あっという間にお膳立ては整った。
「何か、予定されていた未来、って感じだな」
 日本の航空会社はキャンセルやディレイも少ないし、サービスもいいぞ、などと以前アレクセイが言っていた通り、食事も最高、快適すぎて本を読み終わらないうちに、機はスムースに着陸し、さほど待つこともなく荷物を受け取り、ケンは東京都心に向けてタクシーに乗っていた。
「お客さん、学生さん? 留学帰りかなんかですか。今年は例年になく寒いですよね」
 タクシーの運転手は走り出してから気さくに声をかけてきた。
 ケンは携帯で音声を受けて翻訳し、返事をまた翻訳してからそれを読み上げた。
「私はアメリカ人です。日本はプライベートでは初めてです。あまり日本語は話せません」
 比較的流暢に聞こえるが抑揚のない返答に、運転手は「へ、これは失礼しました」と言って、今度は黙り込んでしまった。
 機内でも同じような体験をした。
 搭乗客はアジア系、おそらく日本人が多かった。
 ケンは搭乗する際、日本人女性に親しげに声をかけられたが、やはり片言でアメリカ人だと返すと、もう声をかけてはこなかった。
 何となく面倒になってパーテーションのドアを閉めて、一人で過ごした。
 荷物を受け取る時、若い二人づれの日本人女性にまた声をかけられたが、英語で返すと「ごめんなさい」と離れていった。
 ニューヨークでもたまに日本人と間違われて日本人に声をかけられたりすることがあるが、日本語が通じないとわかると英語で話してくれる。
 日本ではやはり日本語しか通用しないのかもしれないと、今更ながらにもっと日本語を勉強すべきだったかと、ケンは少し後悔していた。
 間違われてというのは正しくないかもしれない。
 ニューヨークで生まれたケンにはアメリカ国籍はあるが、両親は日系アメリカ人でもない、日本人だとはロウエルに聞かされていた。
 両親が生きていて、普通に育っていたら、ケンは日本人だったはずだ。
 だが、日本から来てサウスブロンクスの安アパートに住みついて一年も経っていなかったこの若い夫婦は強盗に入られ、持っていた財産をあらかた盗まれたあげく殺害された。
 泣き続ける赤ん坊と銃声に隣人が通報して警察がやってきた頃には、既に犯人は逃亡した後だった。
 この犯人は後に他の何件かの強殺で捕まったのだが、日本人夫婦のことなどたいして覚えてもおらず、赤ん坊を殺さなかっただけマシだった。

 


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