「あのさ、詮索する気はないけど、大学教授とかってそんな儲かるもん?」
道すがら純がたずねてきた。
「え? 大学教授か、書いた本でも売れればどうかな。ごく普通じゃないのか?」
「いやだって、あんた、さっき、ブラックカードとか出してるし。あれってたしかすごいカードだろ?」
ケンは少し微笑み、ああ、と納得がいった。
「こんなカードを持てるのは、父のロウエルが資産家だったせいだよ。ロウエルは身寄りもほとんどなかったから、遺産を受け継いだだけだ。俺の成した財じゃない。自分ではそんなに贅沢はしないつもりだけど、贈り物とかは別だろう。特に父の家なんだから」
「そうなのか。まあ、そんな風に思ってもらえるのならいいけど」
純がどうやら散財しているのではないかと心配してくれたらしいと、ケンは笑みを浮かべた。
「ああ、それに、今は大学じゃなくて、宇宙局傘下のオフィスで働いている」
「へ??」
途端、純が振り返る。
「宇宙局?! すげ! 何、どんな仕事すんの? 火星とか金星とか調査すんの? 宇宙ステーションとか行くのか?」
「残念ながら、その補佐的な仕事……かな」
期待に満ちた純の目とまともにぶつかって、ケンは少し言葉を濁した。
危険なこともしょっちゅうだなどと真実を言う必要もないだろう。
いずれにしても純の中でケンに対する態度が少しずつ変わってきたのはわかった。
祖父母や叔父叔母に会えたことだけでなく、血縁で弟のような存在が一度に二人もできたことは、ケンにとって嬉しい限りだった。
「この人が、大事なお客さんだからって言ったら角の芝寿司さん、早速届けてくれたのよ。お寿司だけじゃ足りないでしょ。早速いただきましょ」
ケンと純の二人が戻ると、奈美が言うように居間のテーブルには寿司の大きな器の横にすき焼き鍋が登場し、既に美味そうにぐつぐついっている。
文也はケンが土産替わりにとさっき酒屋の店主に熨斗をつけてもらった酒を差し出すと、また瞼を熱くして感激してくれた。
ビールで乾杯のあとは、みんなが健啖ぶりを競って寿司を食べ、すき焼きをつつく。
「あっ、俺のウニ、てめ、食いやがったな!?」
「純のウニなんて、書いてないじゃん」
純がケンのニューヨークでの話を日本語にして文也や奈美、祖父母らに伝えている傍で、享が次々と寿司を口に入れ、途端、寿司ネタの取り合いが始まった。
「ちょっと、お客さんの前でみっともない!」
奈美にたしなめられようが今にもつかみ合いになるところを、今度は信道がエビをかすめ取る。
「あっ、てめ、ノブ、俺のエビ!」
「喧嘩してるヒマなんかないんじゃね? この弱肉強食のご時世に」
「このやろ、勝手なこと並べたてやがって……」
言いかけた純も喧嘩をするより食べる方が先とばかり、ガツガツと食べ始め、寿司の器もすき焼きの鍋もあっという間に見事なまでに空になった。
「ケンさん、十分に召し上がった?」
今のテーブルの状況を見越したらしい奈美が、あらかじめケンの分を皿に取り分けてくれたので、寿司の取り合いというバトルに参加することもなく、ケンもペロリと平らげた。
「しっかし、さすが兄貴の息子だ、お品がいいし箸もうまく使うじゃねぇか」
感心したように口にする文也はまた目じりを拭っている。
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