東京へ行こう 17

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 ナルニア国への扉が再び開いたのは秋だった。
 ちょうどケンの休みの日、唐突に、ハンスが自分でSUV車を運転してケンの家に現れたのだ。
「仕事で一週間ほど、こっちにいる。とりあえず、食事行かないか?」
 ハンスの笑顔はケンの心を揺るがせた。
 ハンスはケンのよく行くレストランバーに行きたがった。
 新しい車のことを夢中で話すハンスは、ニューヨークの場末のバーだろうが、セレブの集うリゾートだろうが、何も変わらない。
 泊まってもいいかと言われて、ケンはNOという術を持たなかった。
 夏以来のハンスに少し触れられただけでケンは熱が上がるのを感じた。
 しかもひどく乱れてしまった自分が朝になってフラッシュバックして、ケンは自分がこんなに淫乱だったのかと我ながら呆れた。
 オフィスではアレクセイも何も言わなかったので、ひょっとしてハンスは自分だけに会いに来たのだろうか、などと考えて、ケンは一人赤面した。
 だが、滞在の最後の夜ケンを迎えに来たハンスは、ゲミンゲンが運転するリムジンから現れた。
 ハンスが滞在している部屋は世界を代表する企業のエグゼクティブとしてふさわしい、最高級のホテルのラグジュアリースイートだった。
「ちょっと普段着過ぎだよね、俺」
 ジャケットを羽織ってきただけマシな方と思いながら、ケンは豪奢な部屋を見回した。
「服なんか、脱いでしまえば同じさ」
 ハンスはジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを引き抜き、シャツだけになってから、用意されていたアペリティフをグラスに注いでケンに差し出した。
「悪いな、フレンチだが型にはまった食事しか用意できなくて」
「いや、なかなかこのタワーのこんな贅沢な部屋、見学できるだけでも面白いから」
 真面目な顔で言うケンにハンスは笑う。
「ニューヨークの一等地にあれだけの敷地と屋敷を持ってる方がずっと贅沢だろう」
「あれは父の屋敷だから。それに一等地じゃないよ」
 そういえばクラウスはどうしてるんだとケンが聞くと、ハンスは今はミュンヘンの自宅にいるという。
 クラウスの話からハンスの家で飼っている犬の話になり、クラウスの他に、ワイマラナー三頭、ドーベルマン二頭、シェパードが三頭いるのだと言った。
「大型犬ばかりじゃないか。誰が世話してるんだ?」
「二人、頼んでいる。みんな訓練はされているが、俺に懐いているのはクラウスとワイマラナーのヤンくらいだな。本当は俺が欲しがって買ってもらったやつらの子孫とかばかりなんだが。猫もいる屋敷中に十頭くらい。ブリュンヒルデに懐いていた子は連れて行ってもらった」
「猫係もいるのか?」
 ケンは聞き返した。
「まあね。トイレの世話をしてもらっているが、ご飯にはどこからともなく現れるし、俺はいいとこどりだな」
「まったくだ。俺はジョーだけで手一杯だ。それも遠出で連れていけない時はシッターを頼まなくちゃいけないし、寂しい思いをさせたくないから」
「ケンは優しいんだな」
「ジョーにはね」
「俺にも優しくして欲しいな」
「してるだろ」
 ちょうどそこへディナーが運ばれ、部屋で食べるなら面倒な作法は抜きだ、というハンスに合わせて、夏以降にあった出来事をお互いに話しながら笑いあった。
 ハンスといるととても楽しかった。
 ハンスもそう感じているらしいと、ケンは思った。
 だからだろうか、ハンスは明け方までケンを離そうとせず、ひどく疲れさせた。
 翌日別れる時も、ハンスは名残惜しげに、そして何か言いたそうな顔で仕事に向かうケンを見送った。

 


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