何となく、ハンスが何が言いたいのか、ケンにもわかっていた。
だがオフィスに来てコーヒーを飲みながらケンは考えていた。
「やっぱりもうナルニア国への扉は開かない方がいいのかも」
「え、ケン、ナルニア物語、読んでるの?」
うっかり口にしてしまったケンの呟きをすぐ傍に来ていたカテリーナに聞かれてしまった。
「え、あ、ああ」
「物理学以外の本で好きなのって、ナルニアだけよ。あんな扉があったらいいわね」
とても現代科学の最先端をいく研究をしている科学者とは思えない発言だが、やはり彼女も同じような境遇なのかもしれない。
読むべき時に読めなかったその童話を、ケンが読んだのは大学を卒業してからだ。
俺とつきあわないか?
ふいにハンスの言葉が蘇る。
って、やっぱ無理だろ。
冷静に考えてみれば、答えは必然な気がする。
お互い住むところも、仕事も、境遇も、おそらく価値観も違うし、何より離れてるし。
多分、プライベートジェットで飛び回るようなやつには、距離とかあまり感じないのかもしれないけど。
有頂天になっていた俺にはわからなかったけど、メグはきっとそんなことを色々考えてしまったに違いない。
同じこと繰り返してどうすんだよ。
友達でいいじゃないか。
それに……
それに何より、俺はアレクセイじゃない。
ハンス、俺はアレクセイの代わりにはなれないよ。
そんなことを考えながらも、いつしかハンスからの連絡を待ってしまうようになっていた自分をケンは持て余した。
ミュンヘンに来ないかと誘われた時、本当はフィフティフィフティなんかじゃなく、すぐにでも飛んで行きたい衝動にかられたのだ。
だから、その反動で、日本に行く、と口にしてしまった。
でもこうして父の家族に会えて、日本に来たことは正解だった。
もう一度自分を見つめなおす、いい機会かもしれない。
「初詣いくぜ。どうしたのさ、やっぱり彼女に会いたくなった?」
ぼんやりコートを着て時計屋の店先に突っ立っていたケンを純が促した。
「いや、そんなんじゃないって…。よし、行こうか、ハツモウデ!」
純と享の兄弟に信道も加わって、四人は駅に向かって歩き出した。
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