Act 6
三人が東京駅に着くと、夕方近くになっていた。
ケンが食事をおごるというので、純と千恵美は新幹線の中で携帯を見ながらどこにするかをああだこうだと言いあってきたのだが、まだ決まっていなかった。
「だって、せっかく日本に来て、やっぱ和食でしょ」
「もったいつけた店は大抵予約だろ? 居酒屋ならあると思うけど」
「うーん、ここいいかも。前に合コンで行ったことがあるけど、割と静かっぽいし」
「合コンっていつの話だよ」
「だからずっと前の話。ここ、聞いてみよ」
コンコースを歩きながら、千恵美は店に電話を入れた。
「三人です、OK? よかった。はい、倉本です、よろしくぅ」
肩の凝らない居酒屋だと千恵美から聞いて、ケンは楽しみだと言った。
「とりあえず、荷物、置いてから行こう。ちょっとホテルに寄ってもいいか?」
名古屋の土産をケンに差し上げてと真美に言われて、千恵美は和菓子でも日持ちがするういろうやえびせんべいを選んだのだが、この紙袋が結構かさばっている。
タクシーに乗り込んで、ケンが帝都ホテルを告げると千恵美が、「お部屋ってどんな感じ?」と聞いた。
「うん、ちょっと俺一人だと広すぎ。実は友達が勝手に決めてしまって」
「え、ってもしかして彼女とか? その方はご一緒じゃないんだ?」
それを聞いてケンは苦笑いする。
「いや、彼女じゃなくて、ほんと友達で同僚なんだが、日本に行くって言ったら、クリスマスプレゼントとかって。本人はパリにいるはず」
「へえ、気前のいいお友達なんだね」
「まあね」
気前がいいと言うか、何も考えてないと言うか。
千恵美の、部屋も見たいというリクエストに、気軽にいいよと応え、フロントからカードキーを取ってきたケンは二人を従えてエレベーターに乗り込んだ。
どうやら純は千恵美に振り回されている感じだな、とケンは二人を微笑ましく見た。
「わ、すっごおおおい! 広おおおおい!」
喜怒哀楽がすぐに表に出る、千恵美の素直さと、ちょっとヒネたクールさの陰に熱いものを隠している純とは、案外似合いのカップルなのかもしれない。
その時、ドアチャイムが鳴った。
「はい、どなたですか?」
ホテルの人間が何の用だろうと、ケンは訝しげに思いながらドアに向かった。
「やあね、私よ。早く開けて、ダーリン!」
「はあ?」
裏返った英語の台詞に一瞬、ケンは動きを止めた。
今のところケンには誰かに狙われるような事実も思い当たらないし、しかもこの平和そうな日本でなど心当たりはない。
何せ丸腰だ。
「ケン~!! おい、開けろよ、てめ! 待ちくたびれたっての」
次の台詞の声には大いに心当たりがあり、ケンは一気に脱力した。
「逢いたかったぜ、ハニー!」
ドアを開けた途端、ケンをハグする、あまりに予想外のブロンド長髪の主を見た千恵美と純はしばし呆気にとられた。
「青い目にブロンド美人の彼女ってわからないでもないが、かなりでかくね?」
純はボソリと言った。
黒のニット帽を被り、ラフなシャツとジーンズの上に渋いブロンズ系でまとめた皮のロングコート、カーリングブーツのその彼女は、雑誌から抜け出してきたように人間離れした美しさだ。
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