「ケン、ね、大丈夫?」
また考え込んでいたケンは千恵美に心配されて失笑する。
「ああ、そろそろお開きにしようか、十時過ぎたし、レジ教えてくれる?」
「わかった」
まだみんな、主にロジァや享が中心に盛り上がっているようだったが、ケンは千恵美と一緒に部屋を出た。
「たった五日ほどだったけど、随分な時間を過ごした気がする」
恐縮する千恵美に、お礼だからとケンが支払いを済ませ、部屋に戻る廊下でケンが言った。
「来てよかったでしょ?」
千恵美は当然というように、ケンを見上げた。
「もちろん。出会った人もわかったこともたくさんあったし」
「よかった。今度はゆっくり遊びに来てね」
「ああ。次は純と一緒にニューヨークにおいで」
「絶対行く。化粧室寄っていくね」
千恵美がトイレに向かうと、ケンは部屋に戻って、そろそろお開きにすると告げた。
「じゃあ、ちょっと俺の部屋に寄って飲まないか? もちろん、ティーンエージャーはお茶だよな」
ハンスが提案した。
「そうだな。このままだとこいつ酔っ払って寝ちまう」
アレクセイがロジァの頭をはたく。
「何すんだ、てめ!」
いつの間にかアレクセイの日本酒を飲んでしまっていたロジァが喚く。
「君らは時間大丈夫?」
ケンが千恵美や享らに聞いた。
「全然平気」
「俺も!」
享はまだ気分が昂ぶっているようで、目を輝かせた。
ハンスは帝都ホテルを日本での定宿にしていたし、アレクセイとロジァもケンがどうせならケンの部屋に泊まればいいものをと言ったところで、既に別の部屋を取っていた。
当然のようにスイートだ。
ケンの部屋とアレクセイたちの部屋はタワー館にあったが、ハンスの部屋はインペリアルフロアにあった。
「わあ、きれい!」
リビングの窓からは銀座の夜景が一望できる。
千恵美はうっとりと窓辺に立った。
「さっき用意してもらっておいたんだ」
ハンスが言った。
テーブルにはチーズの盛り合わせや苺やマンゴーなどの盛り合わせの皿とともにワインやコニャック、それにきれいに磨かれたグラスが置いてある。
別のテーブルには、今しがたティーセットと色んな種類のケーキが運ばれたところだ。
「冷蔵庫にアイスクリームもあるよ」
「きゃあ、嬉しい! じゃ、ケーキからいただこうっと」
千恵美はハンスに勧められて早速ケーキを皿に取った。
「享もどうぞ」
アレクセイが慣れた手つきでお茶をカップに注いでいた。
「すんません」
享はおずおずとアレクセイからお茶を受け取った。
「純はお茶? それとも酒のがいい?」
「俺もお茶がいい」
「ロジァ、お前はアイスクリームか?」
「うっせ、お茶!」
アレクセイにふくれ面を向けながらお茶を受け取ったロジァは、ソファにどっかと腰を降ろした。
「なあ、あと一日くらい帰るの伸ばそうぜ」
お茶をゴクンと飲むと、ロジァがダダコネのように喚いた。
「残念だな、楽しい仕事がお前を待ってる」
「ちぇ、待ってるのはクソジジィだろ? あ、何か考えたら、この辺が痛くなってきた」
テーブルにカップを置いたロジァは、胸の辺りをかきむしる。
「え、大丈夫? ロジァ」
千恵美や純が振り返った。
「気にしなくていい。ロジァの病名は“ワガママ”って書く」
ロジァに睨みつけられながらアレクセイが言った。
「てめ、いつからクソジジィの手先になった!」
悪態をつくロジァを見て、千恵美がフフフと笑う。
「パリで目いっぱい羽を伸ばしてきたんじゃないのか? ロジァ。俺もお茶にしよう」
ケンは言った。
「結構、うまいコニャックみたいだぜ? これ」
アレクセイはボトルを取り上げた。
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