東京へ行こう 41

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 ハンスにもし、これで付き合いはご破算と言われたとしても、それはそれで仕方がないことなのだ。
 ここまでハンスに何も応えないということは、その気がないのだと思われて当然だろう。
 ひょっとしたらハンスも自覚したのかもしれない。
 一時の気の迷いだったのだと。
 あるいは、やはり愛しているのはアレクセイなのだと思い知ったのかも。
 ケンは知らず唇を噛みしめた。
 夏にハンスと会った時はお互い前に進もうとしていたはずだ。
 こんなところで留まっているつもりはなかったはず。
 心の行く末には方程式のように答えが用意されていない。
 傷を癒そうとして新たな傷を作ったら意味がないだろう。
 世の中そううまくはいかないものだな。
 ケンは愛し合っていた相手と別れなければならなかったというロウエルの心に思いを馳せる。
 来ない返事を待って、ロウエルは裕子が心変わりをしたのかとも思ったとも手紙にはあった。
 そうは書いてはなかったが恨んだだろうか、裕子を。
 そういえばロウエルからの手紙は裕子に届けられなかったのかもしれないが、裕子からは手紙を出そうとしなかったのだろうか。
 だが、無理やり愛してもいない男と結婚させられましたなんて、書くこともできないか。
 だから失意のうちに病んで亡くなってしまったのだ。
 諦めながらも裕子を待っていたのに、何年も前に亡くなっていたことを知った時のロウエルの心情は察するに余りある。
 駆け落ち同然にやってきた両親を身寄りもないこの街でいきなり亡くした赤ん坊をロウエルが引き取ったのは、裕子の縁者だったからというのもあったろう、おそらく。
 誰とも結婚しなかったのは、やはり裕子のことを忘れられなかったからだろうか。
 堅物で結婚とかに興味がない人だったのだと、ケンはロウエルのことを思い込んでいた。
 はからずも、教師の息子のくせに学校というものをよく知らないまま育ってしまったケンだったが、ロウエルが厳しくともいい教師だったことはよく知っている。
 それは時折、かつての教え子がロウエルを訪ねてきたからだ。
 面白いことに優等生というより問題児だったという生徒が多かったらしい。
 アンジーやボブがとても信頼していたことからも、ロウエルの人となりが窺える。
 何よりケンはロウエルに愛されていたのだと、それはロウエルを思い起こすたびに思う。
「ケン、コーヒー飲むか? さっきまでサラがいたんだけど、孫預かることになったって帰った」
 マットが呼んだ。
「そうか」
 ケンがジョーと一緒にリビングに行くと、マットはマグカップのコーヒーを持ってきて一つをケンに渡した。
「で、どうだった? 日本でのルーツ探し」
「まあ、面白かった」
 コートを脱ぎ、リビングに腰を降ろしてコーヒーを飲むと肩から力が抜ける。
 ジョーがケンの傍らに来てこちらもようやく落ち着いたという顔で蹲った。
 しばらくケンが話す東京での出来事をマットは面白い面白いと言っていたが、仕事があるからとやがて帰って行った。
 一人になったケンは自室に向かい、ジョーが後に続いた。
 静かに、ケンのよく知っている冬の夜が更けていった。

 


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