東京へ行こう 42

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 翌日は朝から宇宙局内にシステムトラブルが数か所発生したために、ボックスも自分の仕事などそっちのけでその収拾に追われた。
 マイケルとマヒンダは今日からパリに出張で、休み明けの三人とカテリーナの四人が二手に分かれて局内を走り、ランチも取れずにモニターを睨みつけていた。
 宇宙局で仕事をしていると言った時、純にはすごいなどと言わせたが、実情はこれだ。
 宇宙局内の何でも屋。
 ケンはフンと笑う。
 もちろん、自分の研究や様々なプロジェクトの仕事も当然あるにしても。
 それにこのチームに課せられたとあるトップシークレットに関わる特殊任務というのが、局長やら上の幹部との間では暗黙の了解として存在している。
 誰も表立っては言わないかわり、重荷と感じたらいつでも辞めてもいいことになっている。
 ただ、辞めたその先は、果たしてどこに飛ばされるやら見当はつかない。
 さらに、このチームが極めて有能なメンツで固められていることも事実だ。
 その中の一人として認められていることは、ケンも自負していいと思っているのだが。
 それにしても、メグの言ったように、例え彼女が百考えて一つの答えを出すうちに、ケンやこのチームの人間が十とか二十とかの答えを用意できるとしてもだ、ハッカーに攻撃を受けてあわや局の重大事になるところを、たった四人で極力速やかに未然に防げ、なんて、まったく冗談じゃない。
「どっかのセクションが、うっかりハッキングさせるような穴を開けてしまった尻拭いを、食事も抜きでなんざ、やってられっかての」
 隣の男が超美形には似合わないようなセリフを吐いて、グラスのウォッカを飲み乾した。
 しかもセレブ御用達とは言い難いこの古びたレストランバーだが、チームの行きつけで、カウンター越しに、今日はえらく荒れてるな、などと声をかけてくるオヤジは馴染みのバーテンダーだ。
 アレクセイがつついているアサリのフィットチーネやホタテのグリルは店の見てくれに似合わずなかなか美味い。
 帰りがけ、ちょっとつき合え、とアレクセイに強制連行されたケンは、ベーグルバーガーを齧りながら、ビールを飲んだ。
 カテリーナはいつものごとくとっとと局をあとにし、ロジァは約束があるとかで早々にバイクで帰ったようだ。
「あの古ダヌキ、人を何だと思ってやがる!」
「お前までロジァみたいなこと言ってんなよ」
 古ダヌキこと宇宙局局長はロジァの父親でもあるが、いつもは敵対心を露わにするロジァを宥める側にいるのがアレクセイなのだ。
「お嬢ちゃんや坊やは今日一緒じゃないのか」
 カウンターから声をかけられる。
「ガキにはガキの予定があるんだぜ、サム」
「カテリーナは二十歳だ。ガキとか失礼だろ」
 ケンはアレクセイの発言に反論する。
「中身の問題。サム、おかわり」
「そういうお前こそガキみたいだ」
 サムがウォッカを注いだグラスをアレクセイの前に置いた。
 しばらくベッカーがどうとかエッシャーがどうとか、局関係の軍人らをこき下ろすかと思えば、フランスから来たドクター・オージェにはどうやらひどく嫌われているとか、アレクセイはしばらくどうでもいいような話を続けていた。
 ケンは仕事中は何も考えられないくらい集中せざるを得なかったのだが、こうしてふっと息を吐くと、何かの拍子にハンスのことが頭をよぎり、アレクセイの戯言も耳からすり抜けていく。
 やっぱりハンスとはきちんと話すべきだろうと、そのくらいの礼儀は当然だと思うのだが、いつ、どうやって切り出せばいいか、とぐずぐず考えてしまう自分が嫌になった。
 心ここにあらずでようやくケンが食べ終わった頃、アレクセイはそろそろ出るかとスツールを降りた。
 店を出るとアレクセイはタクシーを拾い、ケンを先に乗せて自分も乗り込んだ。
 ケンの屋敷の門の前まで来ると、アレクセイはさっさと料金を払ってタクシーを降りた。

 


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