アレクセイは初めてケンの屋敷を訪れて以来、古い屋敷だけでなく敷地内の庭や木々が気に入っていて、時折、一緒に飲んだ後にケンの家でコーヒーを飲んでいく。
今までならそれも楽しかったケンだが、今夜は何となく一人でいたかった。
だが、勝手知ったるで玄関に向かうアレクセイを無下に追い出すわけにもいかない。
二人が帰ってきたのを聞きつけて、ジョーが一目散に駆けてきた。
ジョーのベッドには専用のヒーターが設置してあるので、常に心地よい環境にいる。
逢えて嬉しいとアレクセイとケンに交互にじゃれるジョーを従えて、二人はリビングに入った。
屋敷にはセントラルヒーティングが設定されているが、真冬はそれだけでは寒いのでケンはオイルヒーターをつける。
「やっぱりいいよな、このうち。地に足がついているっていうか、庭を眺めながら生活できるって」
「五番街に四フロアも占めるペントハウスに住んでいるような輩が何を言ってるんだ。大体屋上庭園だってあるだろう」
ケンはマグカップのコーヒーをアレクセイに渡しながら、呆れた視線を向ける。
「うーん、あれは誰だったかに勧められて買っただけで、セキュリティがばっちりってくらいはいいけど、空中にある家なんざ、やっぱ家じゃないって」
「セキュリティばっちりがお前なんかには最重要課題だろう。うちなんか大変だぞ、冬なんかセントラルヒーティング入れたって使ってない部屋のが多いから、必要ない部屋は電源切ってるが、リビングだって寒いとオイルヒーターとか、下手するとマントルピースまで使わないと寒かったりするんだぞ、この超古い屋敷は。大体セキュリティにしても俺のいないときはサラとジョーだけだったりだし、俺なんかいても万が一には何の役にもたたないかもしれないし、こう古くて構えだけでかいだけなのに、長者みたいに思われて強盗なんかに入られた日には冗談じゃない」
「資産家には違いないだろう。だからセキュリティ強化したって言ってたじゃないか」
ケンが長々と説明するまで待って、アレクセイは言った。
「セキュリティ会社に契約しているし、以前ロジァが庭の四方八方や家のあちこちにカメラ設置して、タブレットや携帯でも管理できるようにしてくれたけど、何かブラックの連中にバイトで門の外辺りに屯してもらった方がずっと安全な気がする」
アレクセイは笑った。
「そいつはいい! 今度もちかけてみろよ」
「何か盗まれるくらいなら構わないけど、サラやジョーが心配なんだよな。いつだったか、マットにシッター頼んだ時、夜中、通り掛かった仲間と門の前で屯してたら、怪しげな車がゆっくり通り過ぎてったみたいで」
「束になると、軍人相手でも蹴散らすぞ、やつら」
アレクセイが面白そうに言う。
「でもまあ、相手が銃とか持ってたりしたら危険だし。こっちは持ちたくなくても持たざるを得ないし」
「A級ライセンス、クリアしただろ、去年」
「そうだ、まるでFBI捜査官並みの犯罪捜査訓練プログラムなんかに参加しているチームなんて俺らだけだよな、局内じゃ」
呆れたようにケンは首を横に振る。
「まあ、銃の扱いはB級でもOKじゃないか」
「ロジァとか面白がって完璧A級クリアしてたよな、いや、FBIじゃなくてどっちかってとCIAか? 俺、大学の時の友人っても、俺よか年は上だけどCIAのやつに、訓練項目がスパイ養成プログラムじゃないかとか、冗談で言われたことがある」
「ああ、リチャードだっけ? そういやCIAじゃねーの? 今日のハッキング」
「まあ、あり得ないことじゃないよな」
「ハンスのこと、好きじゃないのか、お前」
CIAの話の流れで問われてケンは一瞬口を噤んだ。
「だから何で唐突に話がそっちにいくんだ」
「そっちもこっちもないだろ。珍しくマジみたいだからさ、あいつ」
ケンは戸惑った。
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