東京へ行こう 46

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 とにかく歩くしかない。
 雪が少しずつ降り積もっていく家路を、俯きがちにケンはまたトボトボと歩き出した。
 やっと門が見えてきた。
 しかし門に近づいたところで、ケンはまた立ち竦んだ。
 門に凭れて人影があった。
「明日まで待ってたら雪だるまになってたところだ」
 大きな影が動いて、よく知っている声に、ケンの心臓がドクンと跳ね上がった。
「な…にやってるんだ? ハンス、こんなとこで」
 ようやくケンはそれだけ口にした。
「いや別に、ケンを待ってた。ほら、ハンバーガーでも一緒にどうかと思って」
 ハンスは手に持っていた袋を少し上げて見せた。
 こんなところで、大企業の重役ともあろうものがリムジンもなく、ハンバーガーの袋なんか持って、一人で雪の中でずっとケンを待っていたらしいハンスを見たら、ケンは何も言うことができず、目頭まで熱くなった。
 やっと気を取り直したケンは携帯で操作して門を開けると、「信じられない!」と喚いた。
「こんなとこで、雪ん中で、雪だるまになる前に凍死してるだろ!」
「いや、体力だけは自信があるし」
 ハンスは見当違いの返事をして申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
 門があく音を聞いて、屋敷の中からジョーが駆け出してきた。
 だが雪が薄らと積もっていて歩きづらいし、こういう時、ケンは古い屋敷の無駄に広い庭とかにうんざりする。
 ロウエルが遺してくれた屋敷だし死守していくつもりではあるが、維持費はロウエルの資産の利子などで何とかなっているものの、雪が積もれば雪避けだけでも半端ではないから当然、人を雇う必要がある。
 大雪の年など、朝起きてまず溜息ものだ。
 ジョーは喜んで、遠い玄関を目指して黙って歩く二人の周りを飛び跳ねている。
「今暖房入れたけど、温まるまでコートは脱がない方がいいよ。コーヒーでいいかな」
「もちろん、あ、これ、レンジで温めた方がいいな」
「わかった」
 ケンはハンバーガーの入った袋を受け取ってキッチンへと向かう。
 人が来るとわかっていたら、携帯から操作してセントラルヒーティングを入れておいたのだがと、どうでもいいことを考えながら、キッチンでコーヒーを淹れ、温めたハンバーガーを取り出して、トレーに乗せてリビングに向かう。
 ケンがリビングに入ると、所在なさげに立っていたハンスが振り返った。
 一瞬目が合い、ケンはさりげなく逸らした。
「急に来て悪かったね」
「いや……適当に座って」
「食事は?」
「まだだけど」
「じゃあ、ちょうどよかった。一緒に食べよう」
 ようやくハンスはソファに腰を降ろした。
 ケンはハンスにハンバーガーとコーヒーを渡し、自分も向かいに座った。
 ハンスがハンバーガーにかぶりつくと、ケンも俄かに空腹を覚えてしばらく二人とも黙々と食べていた。
 ハンスはよほど腹が減っていたのだろう、あっという間に平らげてしまい、コーヒーをごくごく飲んだ。
「はあ、生き返った」
 ケンはつい笑わずにいられなかった。
「あんな雪の中に突っ立ってたら、本気で凍りついちまうよ」
「いや、電話してからとも思ったんだが、何となく、電話より逢いたくなった」
 その台詞はまたケンを熱くした。

 


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