Act 2
八畳の居間に低いテーブルを囲んで、いや、六人に対してケン一人というような感じで座布団にそれぞれが鎮座した。
ケンの父純也の弟文也と奈美夫妻、長男の純、祖父母の純一、朝子という岡本家の面々に、信道と呼ばれた少年もついでに座ってマジマジとケンを眺めている。
座布団に座るのはあまり経験がないものの、父親が空手をやっていたらしいというので、道場に数年通ったこともあり、正座は問題がなかったが、この狭い空間にこれだけの人間がいるのがケンは少しばかり居心地が悪かった。
奈美が出してくれた茶卓の上のお茶をしばらく眺めながら、何やら誤解があるらしいとケンは頭を巡らした。
沈黙を破ったのは、先ほどからケンに対して剣呑な視線をもろにぶつけている純だった。
「それで、ちゃんと説明しろよ」
どうやらこの純だけは英語が堪能らしく、それはケンとしても助かったのだが。
「僕は」
どう説明していいか迷いながら、ケンは口を開いた。
「生まれて間もない頃、不幸にして両親が事件に巻き込まれて亡くなったため、キース・ロウエルに引き取られて育ちました。両親のことを聞かされたのは十五歳の時です。事件当時、IDやパスポートなども盗まれたため、身元がなかなかわからなかったようですが、その後の調査で身元や日本の家族のこともわかりました」
純がそれを日本語に訳して話すと、純一や朝子は目に涙を浮かべ、文也も奈美も沈痛な面持ちになった。
「だったら、何ですぐに連絡よこさなかったんだよ!」
あくまでも挑戦的な目つきで純がケンに尋ねた。
「母の携帯は辛うじて無事だったので、あ、ここにありますが、市警が一度連絡先の一つに電話を入れたらしいのですが、すぐに切られたということでそのまま放っておかれたようです。十年前、十七歳の頃、弁護士のブラッドリーから岡本さんと連絡がついて、岡本さんがニューヨークに来られた際、僕を訪ねるように住所を渡したということですが、残念ながら会えませんでした」
「そのことなら俺も覚えてる。そのブラッドリーって弁護士が教えてくれた岡本賢って、でたらめな相手だったって言って、意気消沈して親父のヤツ戻ってきたんだぞ!」
純はそう言ってから、ケンの言葉をまた日本語に訳した。
「しかし、ブラッドリーがでたらめを教えるとは思えないんだけど」
ケンは首を傾げた。
すると、今度は文也がブツブツと当時を思い出して話し始めた。
「おう、そうだった、ガッカリしてよ。これで兄貴の子供にやっと会えるって思ってたのによ。兄貴の消息とかは、そのブラッドリーって弁護士の言うとおりだったんだが、肝心の子供に会うならここに行けって、でっかい大学教えられて、ようやくそこまで行って、弁護士の書いた紙を受付で見せたんだ。そしたらたまたま、日本に留学してたってやつがいて教えてくれたんだが、岡本賢ってのはどっかの研究室で准教授だってよ。それ聞いて、何だよって、甥っ子がそんなオッサンなわけねぇし、俺はガックリきて、飛行機の時間もあったし、そのまんま……」
純はそれをケンに英語で話そうとして、また父親に向き直った。
「おい、まて、親父、ブラッドリーはその大学にいるって言ったのかよ?」
「そう聞いたんだが、別人だったみてぇで」
「みてぇって会ってなかったのかよ?! 何て大学だよ?」
「だから大学のセンセなんかに用はねぇだろ? 確か、H大とかって」
何やら二人が喧嘩腰でやり取りするのを黙って見ていたケンに、純がまた向き直る。
「十年前、親父はブラッドリーにあんたがH大学にいるって言われて、会いに行ったって言ってるが、あんた、そこにいたのか?」
ケンは驚いた。
「本当ですか? 十年前、僕はH大の物理学研究室にいました。ブラッドリーから父の家族の岡本さんが会いに来られると聞いて、待っていましたが、会えませんでした」
「准教授って言われたって言ってるぞ」
「その頃、准教授でした」
一瞬の沈黙ののち、純が大きなため息をついた。
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