「なーんだよ、そんなどっかのリーマンみてぇなコートなんか着ちゃってよ!」
どうやら親しげに話しかけているのは若い少年だった。
だが、何を言っているのかわからないケンは慌てて携帯を取り出した。
「どしたん? 純?」
顔を覗き込まれて、ケンはどうやら誰かと間違われているらしいということだけわかった。
「私はケンです」
抑揚のない言葉を口にすると、少年は驚いて後退った。
「え、ウッソ、純じゃねぇの? かついでんじゃ……ねぇみてぇだな。え、どいうこと?」
不思議そうにマジマジと見つめられてケンは、どう説明したらいいかわからず戸惑っていた。
「ちょっと、信道、うちの店先で何騒いでんのよ!」
その時ドアが開いて、出てきた女性が少年に言った。
そしてケンを振り返り、「やだ、純じゃない、あんたここで何やってんの? そんな恰好して、どうしたのよ、その高そうなコート!」と捲し立てた。
「や、違うって、純じゃないって」
信道と呼ばれた少年が言った。
「純じゃないって、どういうことよ、純じゃなかったら誰だってのよ! とにかく、こんなとこに突っ立ってられたら困るわよ、とっとと中入ってよ」
そこへ店から客らしき女性と一緒に奥からカウンターの中にいた男が出てきた。
「ありがとうございました!」
客を送り出した男は、三人に向き直ると「何やってんだよ、店先で」と顰めつらで言ったが、ケンを見るとにやっと笑う。
「おう、純、なんでぇ、その恰好は。お前にしちゃ珍しくしゃんとしてんじゃねぇか」
「だから、おっちゃん、この人、純じゃねぇって」
信道が言った。
「ああ? ノブ、お前、ついにアタマおかしくなったんじゃあるまいな」
だが、そこへまた「何やってんだ、店先で」と同じような台詞が飛んだ。
「純!!!」
声を合わせたように男と女性と信道がその台詞の主を見た。
ケンが振り返ると、皮のジャケットにジーンズ、スニーカーという、まるでロジァのようないでたちの少年が立っていた。
「え……誰? お前………」
ぎょっとしたようにケンを見つめ、少年は言った。
ぎょっとしたのはケンの方も同じだった。
ここのところ無精して髪も切っていなかったので肩についていたし、それほど二人はよく似ていたからだ、少しばかりケンの方が背が高いことを除けば。
「お前、まさか、まさか、……ケン、か?」
突然掴みかかるようにしてケンを客を送り出していた男が見上げた。
何と言っているのか、それはケンにもわかった。
「私はケン・オカモト・ロウエルです」
途端、男はケンを抱きしめ、「ケン! ケン!」と言い、「奈美、ケンだ、ケンが……」と先に出てきた女性に向かって喚きながら感極まって目を真っ赤にして、ケンを再び抱きしめた。
「探したんだぞ! ずっと、探したんだ!」
「まあ、よく戻ってきてくれたわ! お父さんたちにも知らせなきゃ! お父さん!」
奈美はそう言いながら店の中に駆け込んだ。
「申し訳ありません、私、あまり日本語が話せません」
ようやくケンを離した男に、ケンは言った。
すると横から、唐突に英語で話しかけられた。
「何で今まで連絡よこさなかった? どこで何してたんだよ? 親父らがどんだけ探したと思ってんだよ!」
純はそう言ってケンを睨み付けた。
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