東京へ行こう 4

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 タクシーが横付けされたホテルは、東京都心にある帝都ホテルだった。
 フロントで名前を言うと、すぐにインペリアルスイートへと案内された。
「だから、こんな広い部屋でどうしろっていうんだよ」
 部屋が眺めてケンは呟いた。
 一週間支払い済み、延長の際はアレクセイに請求が行くらしい。
「さて、どこから始めようか」
 ホテルには新年を迎えるための飾り付けがそこここに施してあった。
 フロントのフロアには大きな凧が宙を舞い、大きな門松が中央に鎮座している。
 日本ではニューイヤーイブをどんな風に過ごすのだろうか。
 ケンはそんなことを思いながら、ひとまずシャワーを浴び終えて着替えると、とりあえず夕暮れの街へと出てみることにした。

 ケンは乗り込んだタクシーの運転手に、葛飾区小岩を告げた。
 両親の写真はロウエルから渡された遺品とともにケンの部屋にしまい込んであった。
 父親のパソコンは盗まれたが、夫人のエプロンのポケットにあった携帯はかろうじて盗まれずにあって、赤ん坊と一緒に夫妻が映った動画もその中のSDカードに残っていたし、父親の本や空手をやっていたらしく空手衣と名前が刺繍された黒帯、母親の描いていた絵、それにケンが生まれた頃からの写真とともに、それぞれの家族と思われる何人かと一緒に写った写真も残されていた。
 IDやパスポートもなかったため、調べるのに時間がかかったが、夫妻がいつ渡米したか、その家族構成、住所、電話番号などはとっくにわかっている。
 日本の調査会社に調べさせたところによると、ケンの遺伝学上の父親岡本純也の出身地はその住所にあり、純也の父親が経営していた時計店を今は純也の弟である文也が継いでいるらしい。
 文也には妻奈美と二人の子供があり、長男の純は大学三年で二十一歳、弟の享が大学一年で十九歳、ケンの祖父にあたる岡本純一、祖母朝子、六人家族ということだ。
 ちなみにケンは日本名を岡本賢と書くようだ。
 遺された動画や写真から推測するには、少なくともケンは両親に愛されていたらしい、それだけがせめてもの救いだ。
 今回、母親の携帯と小さな絵、父親の本と黒帯、それに写真をバッグに入れてきた。
 ケンがこの夫妻の子供であることは、DNAでも確認済みだ。
 タクシーは商店街の前で色々と思いめぐらしているケンを降ろした。
「岡本時計店はここだよ」
 運転手は言葉がわからないなりに身振り手振りで懸命に教えてくれた。
 商店街は屋根のついた舗道を人々がせわしなく行き交い、音楽が流れ、賑やかだった。
 ケンはしばらく岡本時計店と書かれた店から少し離れたところに立っていたが、確かに自分がここに紛れ込んでも何ら違和感がないように思われた。
 しかし実際のところ、ケンは途方に暮れていた。
 何といえばいいのか、いや、その前に日本語がわからない。
 彼らにも英語はわからないだろう、おそらく。
 通訳を頼んで連れてくるんだった。
 やはり出直した方がいいだろうか。
 ガラスのドアの向こうでは、カウンターを挟んで客の応対をしているらしい男が見えた。
 年恰好からするとあれが純也の弟の文也だろうか。
 そんなことをあれこれ考えながら立ち尽くしていたその時。
「よっ、純! なーにやってんだよ、こんなとこで。年越しライブ行くんじゃなかったのかよ」
 いきなり背中をバシンと叩かれて、ケンは驚いた。


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