「わかった。すぐに戻る」
良太は森村の携帯を切るとすぐに山根の携帯を鳴らした。
「ああ、良太ちゃん」
「すみません、ちょっとアスカさん、片頭痛みたいで」
「ああ、わかった。休憩、少し多めに取ろう。彼女、仕事立て込んでたんじゃないの? 少し休んでもらおう」
「ありがとうございます」
まさしく有難い山根の申し出に、良太は思わず携帯を持ったまま頭を下げた。
それからすぐに良太はスタジオに取って返した。
さっき見たアスカは何か思いつめたような顔をしていたから、早く心配事を取り除いてやらなくてはと思ったのだ。
自分のことでとやかく言っている場合じゃなかった。
良太はアクセルを踏んだ。
可能な限り飛ばしてスタジオに戻った良太は、エレベーターで撮影が行われている階へ上がると、アスカの控室に向かう。
「良太さん! まだ彼女でてこなくて」
ドアの前から森村が駆けよって小声で言った。
「アスカさん何か言いました?」
「ああ。鍵かけてて、返事もしない」
良太が問うと腕組みをした秋山が難しい顔で答えた。
「いったい何があったんだか。彼女と仕事をしてきて、こんなことは今までになかった」
それこそ途方に暮れているようすの秋山などあまり見た例がない。
「アスカさん、良太です。ちょっと中に入れてくれませんか?」
良太はドアをノックして声をかけた。
するとややあって、「良太だけ入って」という声がした。
良太は秋山と顔を見合わせて頷いた。
ドアのロックが解除されたのがわかると、良太はノブを回し、中に入った。
良太が入ると、ドアの傍に立っていたアスカはまたドアをロックした。
少しアスカの目元が潤んでいるように見えた。
「何か……涙腺がおかしくなっちゃって」
ボソリとアスカが言った。
「さっき、また、秋山さん、佐藤さんと電話してた」
「あ、そのことですけど、秋山さんにそれとなく聞いたら、佐藤さんとは何でもないって」
俯いていたアスカが良太を振り返った。
「佐藤さんとはほんとに、スキーの時に高校以来初めて会ったって、ただ、佐藤さん、今、家のことやなんかで問題を抱えていて、相談された秋山さんが小田先生を紹介したみたいです」
「え……」
良太はアスカを見つめて頷いた。
「佐藤製作所の社長が佐藤さんの父親なんですが、今臥せっているらしく、佐藤さんの夫と古株の社員との間で後継者争いが起こってて、しかも佐藤さん、夫のDVから逃げてきたらしいんです」
「DV?」
「小田先生から依頼されて、また加藤さんたちが動いてます。佐藤さんは小田先生が手配したところへ避難してるようですが、会社では古株の人が会社の金の横領で警察につかまったりとかで、佐藤さんは心配で秋山さんに連絡を取っているだけだと思います」
良太はアスカの前に膝をついてアスカの顔を見上げながら、ゆっくり話して聞かせた。
アスカはやっと落ち着いてきたらしく、そうなんだ、と呟いた。
「……でも……」
多分同じことを考えたのだろうと、良太は「ほんとに単なる同郷のクラスメイトだって、秋山さん言ってました」と続けた。
「俺、思うんですけど、もし、佐藤さんが秋山さんの恋人なら、わざわざ人に頼んで避難させるとかしないと思います」
アスカはハッとして良太を見た。
「今、秋山さんが心配してるのは、今迄こんなことがなかったアスカさんのことだけですよ。何があったのかって」
するとアスカはちょっと口を尖らせて、「メイクさんだけ、呼んで」と言った。
「わかりました」
良太が立ち上がると、「メイク終わるまで誰も入れないで」とアスカは付け足した。
メイクさんと入れ替わりに部屋から出てきた良太は、「何か話した? 彼女」と待ち構えていた秋山に早速問い詰められた。
「いや、何て言うか………」
良太はどう答えていいか考えつつ、言葉を探した。
「思い当たるといえば、ほら、竹野さん」
秋山が言った。
「竹野さん? が何か?」
竹野がアスカに何か言ったのだろうか。
良太は訝し気に聞き返した。
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