だがあえて佐々木が沢村を突っぱねるのは温度差というより、佐々木の自制心の強さのような気もするのだが。
「ちぇ、逢いたいだけなのによ!」
沢村の気持ちもわからないではない。
いや、むしろ軽井沢のスキー合宿の時も、佐々木に会いたいがために無理やりキャンプ地の宮崎からやってきた沢村のことを少し羨ましくさえ思ったのだ。
「くっそ、やっぱ在京チームに行った方がいいかな」
そこまで言ってしまえることも。
「バーカ、んなことしてみろ、佐々木さんに口聞いてもらえなくなるぞ。とにかく、来週までお前のやるべきことをやれよ」
ようやく沢村は文句を並べたてながら電話を切った。
逢いたいだけ……か。
そんな風にストレートに言えればいいよな……
いや、初めはそうだったんだ、俺も。
良太のまっすぐな性格上、いつも直球勝負でやってきたはずだ。
けど、どこからか、工藤に対してだけは直球では行けなくなった。
まあ、あんな海千山千ってオヤジだからな。
裏の裏の裏を読んでも、トルネードでも、何か太刀打ちできないみたいな気がする。
こないだの怪我だって、組とかに関係あるみたいで、あの得体の知れない波多野ってやつが絡んでんじゃないか、って勝手に推測するしか、だってあのオヤジ、俺には何も言ってくれない。
それが哀しい、というより、やはり工藤にしてみると、俺なんかてんで役に立たないガキでしかなくて。
「そろそろ行くけど、良太、まさか仕事?」
ラウンジに戻ると、志村が立ち上がった。
「いいえ、そうではないんですけど、鈴木さんにオルゴールを見てくるように言われてて。娘さんのバースデイプレゼントにしたいって」
良太が出張のたび、快く猫の世話を買って出てくれている鈴木さんには頭が上がらない。
いつもオフィスで留守番の鈴木さんからの、時間があればでいいのよ、と控えめな頼みだったが、ドーンと時間が空いたからには何にせよまず小樽の街を散策する必要がある。
かつては港湾の貿易で繁栄した街は、その名残を今度は観光へ向かわせ、冬にも情緒豊かなイベントが用意されている。
残念ながら今回はそのイベントには間に合わなかったが、雪に覆われた運河や歴史的建造物などを眺めながら通りをそぞろ歩くだけで十分情感溢れる街の佇まいを堪能できる。
ホテルをチェックアウトした良太は、明治時代に建てられたというオルゴール館を訪ね、オルゴールの情報を携帯で鈴木に送ると木製のピアノ型のオルゴールがいいという返事が返ってきたのでそれを買い、ガラス工房ではきれいな細工のストラップを鈴木への土産にし、ついでにバレンタインのお返しにというポップを見て、可愛いフィギュアやストラップをいくつか買った。
四時を過ぎた頃、小杉や志村に断って良太は小樽駅から函館本線で札幌に向かった。
各停でも約一時間、のんびり行くことにする。
それにしても雪が少し強くなってきた。
ホームに滑り込んできた列車も雪を被っている。
しばらく石狩湾沿いを列車は走っていく。
吹雪で視界は悪かったが、逆に自然を感じて良太は子供にかえったように窓の外をじっと見つめていた。
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