千歳空港に降り立った工藤高広は決して不機嫌なわけではなかったが、すれ違う者たちはその鋭い眼光にぞっとしてつい振り返った。
坂口から連絡があったのは二日ほど前のことだ。
坂口との仕事は今までもやり甲斐があるものだったが、ただでさえスケジュール限界のこの時期には有難いとはいえない話だった。
しかし坂口という男は何だかだと持論をかざし、これまでにも幾度かさすがの工藤も最後にはウンと言わされてしまった経験上、やるやらないの口論をするより、とっとと打ち合わせを済ませてしまった方が時間の節約になる。
にしたって何でまたよりによってクソ寒い札幌なんだ。
ついこの間も別の案件で歩いた記憶のある空港のロビーを工藤は足早に横ぎった。
いずれにせよ今夜は札幌に泊まるしかないだろう。
予定を狂わされたことにいつまでもイラついていても始まらない。
工藤はタクシーで指定された札幌のホテルに向かった。
良太は小樽で撮影のはずだが、山之辺や脚本家と監督との間で四苦八苦しているに違いない。
札幌行きを連絡して以来、何も言ってはこないが、何とか進行しているんだろう。
いつぞや懸命に三人を宥めていた良太の顔を思い出すといつの間にか眉間に皺が寄る。
良太のためには顔を出した方がいいとは思うのだが、山之辺とのことでまたマスコミが騒ぎ立てるとただでさえ遅れ気味な撮影の進行にも関わらないとも限らない。
窓の外は雪が激しくなってきた。
辛うじて工藤の乗った便はさほど遅れもなく到着したが、エアポートでは次の便は遅れているか欠航になるというアナウンスが流れていた。
とりあえず明日は飛んでもらわないと困るのだが。
あれやこれやと懸念材料を抱えた工藤を乗せてタクシーはやがて道央自動車道から札幌の街へと入った。
札幌駅のホームを出るとキャリーケースを引きながら地下道を歩いて、良太は手近なホテルを目指した。
「とりあえず今晩の宿を確保しておかないと」
今夜は自腹を切ることになるが札幌に来る途中でネットで予約したビジネスホテルは、平日で安くなっているらしい。
ホテルにチェックインして荷物だけ部屋に置くと、良太は夕暮れの通りを散策してみようとホテルを出た。
札幌の土産はと聞いて鈴木さんが教えてくれたのが、若い女性に人気があるというパティシェリだ。
地下鉄で二つ目、目指すパティシェリで美味しいと評判のビスキュイやマカロンを買い込んだ良太は頃合いを見計らって工藤に連絡を取ろうと思っていた。
近くのカフェに入ってちょっと大きく息をつくと、良太はコーヒーを頼んでから携帯を取り出した。
「六時半か、タイミング的にどうだろ」
独り言を口にしながらコールする。
コール六回で不機嫌そうな声が聞こえた。
「何だ」
声を聴いただけで、良太の心臓はちょっと跳ねる。
こりゃ、状況報告だけにしといた方が無難かな。
ドキドキを落ち着かせながら、工藤の不機嫌具合はかなりなものと良太は判断した。
ま、昔から馴染の脚本家とはいえ、クソ忙しい時に札幌に来い、だもんな、工藤がキリキリするのもわからないでもない。
「……あ、えと、今いいですか?」
「早く言え」
地獄の大魔王みたいな声だ。
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