それでも数日ぶりに工藤の顔を見て何やらほっとした良太は、向かいの二人に顔を向ける。
二人は和やかに笑い、冷酒を酌み交わしている。
今夜の打ち合わせはどうやらこの三人だけだったようだ。
テーブルにはジンギスカン鍋がドンと置いてあり、その美味そうな匂いが良太の嗅覚を刺激する。
「遠慮せずにどんどんやれ」
坂口は世話好きな男で、それぞれの器に鍋から取り分けて、「ほら、ちったあ工藤も食えよ」と工藤の前に山盛りの器を置いた。
「はあ、どうも」
「相変わらず不景気そうなツラしやがって」
べらんめえ口調でしかも口は悪いらしい坂口は、だが人好きのする雰囲気を持っている。
宇都宮は酒が入ると徐々に口も軽くなって、常に柔和な笑顔を湛えていた。
「ああ、パワスポなら見てるよ、へえ、そうかあれ、君の番組か」
「え、いや、俺のってわけではないですが……あの、『陽だまりの家』すごく印象に残ってます。『審判』とかもカッコよかったです」
「ありがとう」
こんな甘い端正なマスクでにっこりされたら、女性なら大抵は胸をときめかせないではいないだろう。
おまけにタッパあるし、パッと見より体格もよさそうだと、良太はちょっと羨まし気に宇都宮を見た。
『審判』は行動的な裁判官がち密な推理力を働かせて事件を解決するミステリー小説の映画化だが、追い詰めた犯人と対した時、裁判官の耳に犯人の心の声が聞こえてくるという現実離れした設定で、主演の宇都宮はこの映画で改めて幅広い年齢層からの人気を得た。
「小樽と芦別が舞台だ。俊ちゃん、君は北海道だったよな」
ドラマの設定の話になり、坂口が宇都宮に尋ねた。
「ええ、バリバリの道産子ですよ。釧路ですけどね」
「まあ、内容的にはカッコいい俊治って感じじゃないがな、どっちかっていうとワイフと若い恋人の間で右往左往するカッコ悪さか」
「両手に花じゃないですか」
宇都宮は笑う。
「牧歌的でサラリとした雰囲気で、バックには第六番、大学病院勤務の外科医でハンサムガイでちょっとタラシだがワイフは大病院の娘で将来安泰、人生順風満帆な四〇代の男ってのが君だ」
坂口はニヤリと笑う。
「奥方も外科医で美人、こっちは竹を割ったような性格できついが明るい、職場結婚して十年、子供はいないが互いを認め合っているってな理想的な夫婦だ。ところが男がたまたま出張で生まれ故郷の小樽に帰った時、別れた昔の恋人の娘と出会う、とまあ、結構ありそうな設定だ」
坂口が端的にドラマの内容を説明した。
「恋人の面影をその娘に見てのめりこんじゃうとか?」
ちょっと笑みを浮かべて宇都宮が聞いた。
「まあ、そうだ。とりあえず原作を読め。『田園』って、ちょっと前にベストセラーになっただろ」
「過激だけど透明感のある描写って話題になりましたよね」
それを聞いていた良太がつい口を挟む。
「そう、それだよ。君は読んだ?」
坂口は良太に微笑んだ。
「ええ、ざっとですけど、内容的に深いのにサラッとした空気感というか、大須賀健の話題作ですよね、女子高生がヒロインだから」
「えっ、俺、女子高生と過激にやっちゃっていいんですか?」
宇都宮がちょっとおどけて笑う。
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