「なーんか、ちっぽけだよな、俺なんて。お前が羨ましいよ。外から見たらちっぽけなもんだろ、日本なんて」
「そうじゃないでしょ、志央さん」
「え…?」
志央は小首を傾げて七海を見上げる。
「おじいさん、ひとりにしたくないんでしょ、ほんとは」
優しい目が志央を見つめている。
「バッカいえ…お前、俺を買いかぶってるよ」
志央は言い捨てるように傍にあった石ころを蹴飛ばした。
「志央さん」
突然、目の前が暗くなる。
七海のガクランに顔を押し付けられたと理解した直後、ぐいと顎を掴まれ、志央は上向かされる。
「七…海…」
呟く志央の唇はあっという間にふさがれる。
いつもの甘いキスだったのが、次第に深くなっていく。
「な…七海…! ダメだ、七海」
ふっとようやく唇が離れ、志央は息をつく。
「何がダメなんです?」
「何がって…」
「俺、志央さんのこと、もっと…好きになっちまいました」
違う。
お前はほんとの俺を見てるんじゃない。
俺は幸也と賭けをしてそれで、好きだと、そう言わせるためにお前に近づいたんだぞ!
志央の心の中でどろどろした思いが渦を巻く。
「七海…」
七海を思い切り利用してるのは自分なのだ。
そんな一途な目で見てもらえるような男ではないのだと。
「言うな…。そんなこと、俺に言っちゃいけない」
「どうして? ほんとです。ほんとに好きなんです。もう、このまま志央さんのことかっさらってどっか雲隠れしたいくらい」
ダメだ、と否定しようとするのに、七海の腕の中は居心地がよすぎる。
再び、七海は唇を寄せる。
ヤローのタコぼーず相手のキスなんか、夢中にさせといて、とっとと逃げ出す、そんなシナリオのはずだったのに。
もういいや、やっぱりもう賭けなんか止めよう。
それで幸也が納得しなければ、負けを認める! 携帯なんかまた買えばいいんだ。
幸也にキスだって何だってこの際してやろうじゃん!
そう考えれば何もかも吹っ切れる。
じゃないと、自分は七海をずっと騙していることになってしまう。
俺、七海のこと……マジ?
七海を、好きになってる…?。
美央と同じ暖かさを持ってるからだけではない。
志央は美央がいないことをやっと認めることができた気がした。
やっと、ひとりで立って歩いていけそうな気がするのだ。
七海を見ていたら、そう思えるようになった。
七海が傍にいてくれるなら……。
波に抱かれるように、志央は七海の腕の中で揺れている。
心がひどく熱くて、たまらない。
「今度、江ノ島行きませんか? 俺のバイクで」
七海の声が耳元で囁く。
「海見ながら走るの、スカッとしますよ」
「ああ、いいな、それ」
志央は夢を見るように呟いた。
江ノ島か。
晴れれば気持ちいいだろうな。
創立祭のための作業は連日の放課後、続いていた。
志央が図書館から数冊の本を抱えて生徒会室に戻ると、灯りが消えていた。
「何だ、もう帰っちゃったのか、みんな」
ちょっと怒りながら、ドアを開けて中に入ると、薄闇の中にまだ人影があった。
「幸也……? 脅かすなよ。なんだよ、灯りもつけないで」
志央が灯りをつけると、窓に寄りかかっていた幸也はゆっくりと体を起こし、志央に近づいてくる。
「堺はもう帰ったのか?」
「志央」
それには答えず、机の上に本を置いた志央を、幸也がすぐ間近で呼ぶ。
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