「ほんとにラーメンでいいのか?」
「いいです。しっかりつかまってくださいッ!」
七海は志央にもヘルメットをかぶせ、タンデムで夜の街にバイクをを走らせる。
カワサキの一〇〇〇cc。
確かにこのくらい大きくなければ七海には窮屈そうだ。
小型バイクとは安定感が違う。
ドドド…という排気音も重い。
陵雲の学生ご用達のラーメン屋に入ると、七海はラーメンの大盛りに餃子とチャーハンを頼んだ。
掻き込むように食べるその食べっぷりは実に小気味よい。
本当に何でもうまそうに食べるのだ。
「ラーメン一杯じゃ、足りないですよ。餃子もうひとつ食べてください」
あまりの豪快さについ見入っていた志央の皿に自分の餃子をハイ、と載せる。
腹が減りすぎてガツガツしながらも、志央の世話も七海はもちろん忘れない。
「え、ずっと図書館にいたのか?」
「いや、六時で追い出されましたから、ベンチで寝てました」
「お前、風邪引くぞ。生徒会室、くればよかったのに」
「だって、お邪魔でしょうが」
顔を赤くしながら断固として答え、志央に熱い眼差しを向ける七海を見ると、志央はやはり何かしらのわだかまりが拭えない。
「ちょっとその辺、飛ばしてみますか?」
店を出ると、志央にヘルメットを渡しながら七海が言った。
「あ、うん…」
七海がエンジンをかける。
志央が七海の背中から腰に腕をまわすとバイクは斜めに車体を倒しながら、ゆっくりカーブを描いて走り始める。
流れていく街の灯りに漂うような浮遊感。
風を切って走っているとすぐに寒くなるが、七海の広い背中にしがみついているのが妙に心地よい。
どうしよう。
この心地よさを誰にも譲りたくない。
どうしよう、俺…。
七海……。
「ここ、ちょっといいでしょう」
坂の上には寺があるらしい。
境内に上がる階段の手前にバイクを止め、七海は街が見渡せる楓の木の下に志央を誘う。
「こないだ見つけてここでぼーっとしてたんです。公園じゃないからカップルもこないし」
眼下には街の明かりが広がっている。
顔を上げれば降るような星空だ。
「うわ、すげー…星…」
「ほんとだ」
ほうっと志央はため息をつく。
「どうしたんですか?」
「ずっとガキの頃、家族で別荘に遊びに行った時、みんなでこんな星、見てたこともあったんだなー、なんてさ。あの頃はまだ家族があったんだ。じじいも、父親も母親も、美央もいて」
志央はフンと鼻で笑う。
「でもそんなもの簡単に壊れちまった。物心つく頃、不倫した父親を母親が家から追い出してさ。婿養子だったし。父親はそれからその不倫相手の若い教師と再婚したらしい。母親は美央と俺をハウスワーカーに任せて、料理研究家として独立して、料理学校作って、今やテレビや雑誌にも登場する売れっ子先生だ。美央がいなくなってから特に、うちなんか全然寄りつきゃしない」
「志央さん…」
「俺なんか、ひとり残されて、学園からだって出て行けやしない。じじいがうるさくてさ」
志央はどうしてこんなことを七海に話しているんだろうと思いながら、自嘲するように笑った。
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