「な、なんだ」
心の中まで見透かされた気がして、志央は顔を赤らめる。
「堺が決算報告と予算案の作成をいつまでにやればいいか、とさ」
「そ、うだな、創立祭あけくらいには欲しいが、堺も次期生徒会長に立つことになってるし忙しいよな。遅くても総会の五日前くらいに目を通せればいい。それだけあれば資料作成も余裕でできるだろう」
相変わらず堺勝浩と幸也の間には大きな溝があるらしい。
ここのところ幸也も勝浩に対して目立ったアプローチもしていないようだ。
勝浩に近づくのはもう諦めたのかも知れない。
そういえば、そろそろあのバカな賭けを始めて一ヵ月になる。
キスなんてとっくにクリアしてるのだが。
それを何となく幸也にも言いそびれている。
いや、写真とか、まだ、撮ってないし………。
色々自分に言い訳してみるのだが、実のところ賭けなんか、いっそこのままなかったことにしてしまえばいい、と志央はそんなことを思い始めていた。
「幸也、フォーラムの出席者リストは?」
「ああ、全学年昨日で出揃った」
創立祭のフォーラムでは、海外のゲストや大学教授、それに近隣の生徒会役員とともに、有志を募っての討論会が予定されている。
環境問題がメインテーマだが、他にイジメ問題などについても話し合う。
壇上の大スクリーンを使いリモートで、海外も含めて離れたいろんな高校との情報交換なども行うことにもなっている。
気が付くと、壁の時計は七時半を過ぎていた。
校舎は小高い丘に建っているので、日が沈み、部活も終わって生徒たちがいなくなると、学園を取り囲む鬱蒼とした木立の群れが闇に黒々と浮かび上がり、薄気味悪いものになる。
しかも既にバスもなくなっている時間だから、街まで坂を歩いて降りなければならない。
「今日はこんなところで、明日にしようぜ」
志央はまとめていた資料のファイルを閉じ、ノートパソコンを終了させて電源を落とすと、カバンを抱えて、「おさきに」とあとの三人に声をかける。
「おい、待て、送る」
幸也は志央の後を追おうと、慌ててカバンを掴む。
「ああ、俺、七海にメシおごる約束してるから。いつも弁当作ってもらってるしさ」
志央はドアのところで振り返り、「鍵、頼むぜ」とドアを閉める。
「まさか、やっぱ、あの二人マジ、デキちゃったんっすか?」
普段はあまり生徒会室に寄りつかないのだが、さすがにここ数日は創立祭の準備のために出てきている書記の松永が、苦々しく唇をかみ締めている幸也の心情を逆撫でするように興味津々で聞いてくる。
「そうだな、こんな時間にひとりじゃ心配だし、堺、送っていこう」
松永の問いは無視して気を取り直すと、幸也は帰り支度をしている堺に声をかけてみる。
「今日は母に迎えを頼みましたから、結構です」
すげなく断ると、勝浩はお先に失礼します、ととっとと生徒会室を出て行く。
「ふられましたねー」
ハハハ、と笑う松永に、「うるさい、早く部屋を出ろ。鍵をかけるぞ」と幸也は苛ついて怒鳴りつけた。
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