みんな、何かしら人より厄介な人生を抱えて生きてきたせいなのか、この会社の面々に今までもどれだけか助けられたか知れない。
いや、抱えてなくてもか。
ふと、ドラマの撮影前にわざわざアスカがオフィスに立ち寄ったのは、別に良太をからかおうというわけでもなく、そんなことくらいでおたおたしそうな良太にアスカなりに活を入れるためもあったのではと思う。
「いや、アスカさんに限っては七三で面白がってるに決まってる。っと、んなことに時間取られてる場合じゃないって」
早いとこ片づけてしまいたい書類があったのを思い出して、パソコンの画面に向かったところで、良太の携帯が鳴った。
画面に映し出された名前を見て、良太はちっと舌打する。
「はい」
「よう、色男! なかなかやるじゃん、お前も」
だから出たくなかったのだ。
関西タイガースの四番を打つ人気スラッガー沢村智弘。
キッズチームの頃からのライバルは、おそらく週刊誌を見て面白がってわざわざ電話をかけてきたのだ。
「くだらないことで電話なんかすんな。お前、オープン戦の途中だろうが」
「だからだろ、ひたすら真面目にゲームやってるだけの味気ない毎日ってとこへ、飛び込んできたこのセンセーショナルなスキャンダル!」
「なーにがセンセーショナルだ、言っとくがあれは……」
このやろ、佐々木さんとなかなか会えないもんだから、俺で憂さ晴らししようって魂胆が丸見えなんだよ!
「そういや、ミユミユとお前、こないだのキャンプ取材の時もいちゃついてたもんな。大学の後輩だって? ミユミユ、ああ見えてT大卒の才媛なんだ」
「誰がいちゃつ……! だから、俺と彼女はそんなんじゃ断じてあるわけないんだっ! あの写真だっていいか、パワスポの打ち合わせの帰り、テレビ局の玄関前で、他のメンバーも周りに……」
「まあまあ、いいじゃん、お前んとこのオヤジにばっか好き勝手させとかなくても。っと、時間だ、んじゃ、またくるんだろ? 取材、楽しみにしてるぜ」
「ちょ……、こら、沢村っ!」
言いたいことだけ言って切ってしまった相手に怒鳴っても、既に携帯から聞こえているのは無機質な機械音のみだ。
「あんのやろう、勝手なこと言いやがって」
だが、人には恵まれているといえばそうなのかもしれない。
良太はあらためて思う。
もし、リトルリーグからの顔見知り、いや、良太にしてみればライバルでもなければ、関西タイガースのナンバーワンスラッガーとこんな砕けた会話ができるとは限らないだろう。
何せ、良太とは軽口を叩く沢村智弘だが、高校、大学と騒がれすぎたせいで、超マスコミ嫌いはよく知られていて、よほどじゃないと取材に応じてもろくな答えが返ってこない。
特にキャンプインの頃はまだ調子が低迷していて、そんな時に取材など金輪際ありえない。
はずが、『パワスポ』の取材で市川とともに沖縄に飛んだ良太が、「何だよ、まだ調子あがらないのかよ」などと声をかけるのに、周りの取材陣は息を呑んだ。
初めて良太に同行した市川も同じくである。
「っせぇな、俺はいつも尻あがりなんだよ」
イラつきながらそんな言葉を返したあと、二人してぼそぼそと談笑し始めたのを、マスコミも市川も不思議そうに見ていたものだ。
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