「あのっ」
そんな二人に割り込むように声をかけたのは、アスカをしてしたたかと言わせた市川だ。
「あ、悪い、市川さん、ほっといて。沢村、調子悪いとてんで不機嫌でさ」
「すごい、ほんとにお二人、仲いいんですね。始めまして。NTVの市川と申します」
さすがに沢村も良太と一緒にいる市川に対してはそう邪険にもできず、クールな表情は崩さないまでも淡々とインタビューに答えざるを得なかった。
どうやら市川の中で良太のランクがぐんとあがったのは、その一件が大きかったようだが。
沢村は自己評価していた通り、尻上がりに調子を上げて、ここ数日打撃練習でも柵越えを連発し、特大のオープン戦第一号も出たばかりだ。
「だもんだから、あのやろう、調子こいて……」
ただライバルというだけなら、こうまで親しくはならなかったに違いない。
大学を卒業したのち、かたや鳴り物入りでプロ野球界に入って即活躍し、かたや借金を抱えてこの青山プロダクションに入ったものの、しがないサラリーマン。
もし工藤に無理やり『パワスポ』のプロデューサーなどやらされることがなければ、二人の接点はなかったはずだ。
それでも、『パワスポ』として取材を申し込んだ際、沢村がすんなり応じてくれるとは良太も思っていなかった。
あにはからんや、六大学の試合以来で顔をあわせた沢村とは、以来十年来の親友のように本音でつき合う間柄になったのだが。
「ちぇ、自分は何だよ、マスコミ嫌いとか言いながら、前はどっかの女子アナと噂になってたくせ」
当時は、仕事とプライベートは別だからな、などとしゃあしゃあとぬかす沢村も、クールさをおいても凛々しいマスクと昨今の活躍のお陰で写真週刊誌ではお馴染みさんだったはずなのだが。
しかしそんな沢村を、その人のためなら野球なんかやめたっていいくらいマジにさせるような相手が現れようとは、良太も思いもよらなかった。
その相手というのが、広告業界では天才クリエイターと称され、かつ、稀有な美貌の主としてむしろ被写体であるべきとさえ噂される、佐々木周平その人だった。
元をたどれば、良太と佐々木が仕事で打ち合わせをしていたことが発端となったらしいのだが、沢村が押しまくって何とか佐々木と付き合うことになった後も、佐々木のことでは何だかだと良太に泣きついているものだから、たまたま良太の身に、なんじゃこら、な災難が降り注いでいると知った日には、ここぞとばかり揶揄しないでかという、性根の小さい男なのだ。
「ほお? なかなかのショットじゃないか」
良太が今度こそぎょっとして振り返ると、いつの間にか電話を終えた工藤が、アスカがテーブルの上に置いていった写真雑誌をのぞきこんでいる。
「そ、それっ! 『パワスポ』の打ち合わせでご飯食べに行って帰ってきたとこですからっ! 他にもスタッフがいっぱい………」
実のところ、秋山から面白い写真が今日発売の写真週刊誌に載ってるからオフィスに寄ってみろ、という電話を起き掛けに受けた工藤も、今度はいったい何の写真を撮られたのかと思って、少し早めにオフィスにやってきたのである。
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