しかしまさか、撮られているのが良太とは思わなかった工藤は、それを見て苦笑せざるを得なかった。
「かなりの腕だ。そんじょそこいらのカメラマンのやり口じゃないな。名前も…ない」
アスカがわざわざ見開きで置いていったに違いないと怒りつつも、良太はわたわたと慌てて工藤の手から雑誌を取り上げようとするのだが、工藤はそんな良太の言葉も聞いてはいない。
ちぇ、何だよ、ちょっとくらい心配しろよ!
あまりに平然としている工藤には、内心ちょっとガッカリなところもないではない。
火のない煙草をくわえたまま雑誌を覗き込む工藤を見上げた良太は、工藤がどうやら疲れているようだと気づく。
最近は本数を減らし、特にうるさいアスカの前ではほとんど吸わなくなっている工藤が煙草をくわえるのは、疲れているか、面倒な仕事を抱えているときである。
眉をひそめる工藤の目じりの皺が深いのは、かなり疲れている証拠だ。
「今日くらい休んでたらいいじゃないですか、工藤さん。今日は急ぎで入ってる仕事もないし、俺が代わり行ければ行きますよ」
雑誌のこともどこへやら、つい、そんな言葉が口をついて出る。
「そりゃ、ありがたいな。『美聖堂』の斎藤さんに、お前もこないだ気に入られてたし、行ってくれるんなら譲ってやってもいいぞ」
焦りまくった良太の弁解を聞くまでもなく、よく見れば雑誌の写真はテレビ局の前だ。
相当腕のあるカメラマンが撮ったらしいことはわかるのだが、どうもその写真の雰囲気に工藤は見覚えがあるような気がしてさっきから気になっていた。
「げ……、い、や、あの、ハハ、斎藤さんは、やっぱ、工藤さんじゃないと、俺じゃ相手になんないですって」
『美聖堂』の斎藤と聞くなり、後ずさるように自分のデスクに逃げ帰る良太を、工藤はフンとせせら笑う。
大手化粧品メーカーの『美聖堂』は、何年も前から青山プロダクションの大事なスポンサーではあるが、その理由はワンマン社長の斎藤に工藤が気に入られているところが大きい。
ついでに『美聖堂』がメインスポンサーとして四月から放映予定のドラマ『遠き灯』には工藤とは長年のつきあいである山内ひとみもアスカの義理の姉という重要な役どころで出演しているのだが、大抵この山内ひとみとセットで工藤は斎藤に呼びつけられるのである。
何がというわけではない、二人を気に入って会社のトップとしてはおいそれと口にできないようなことも聞いてもらいたい、くらいのものなのだが、それに一度良太を同行させたことがあった。
ウワバミたちの相手で夜を明かし、ヘロヘロになってロケ地の会津までその足で向かった良太は、福島空港に着くまでのわずかな時間アテンダントに起こされるまで爆睡した。
着いたら着いたで例によって監督と脚本家が揉めているところへ間に入り、その上、山之辺芽久が衣装が合わないとごね始め、散々な一日を送る羽目になったのだ。
それはまだ良太の記憶に新しく、斎藤は金輪際付き合いは遠慮したい相手なのである。
工藤もその話は聞いていた。
まあ、ちょっとまだ、斎藤さんの相手は無理か。
工藤は笑いながら、さすがに疲れを感じつつデスクに向かい腰を下ろした。
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