そんな様子を見やった良太は、どうせ工藤のことだから、斎藤に良太を引き合わせたというのは、いずれまた自分の代わりに良太を人身御供に差し出そうという魂胆があるに違いないと睨んでいる。
危ない、危ない、自分から火の中に飛び込んじまうとこだった。
この頃ようやく良太にも工藤という男について少しばかり冷静に判断できるようになってきたことがある。
かつてMBC時代、敏腕プロデューサーとして名を馳せ、MBCを辞めてこの青山プロダクションを興したときも、MBC時代からのスポンサーや広告代理店との付き合いがあってこそ順調な滑り出しをした、という。
もちろん工藤がこれまでかかわってきたドラマや映画も外れというものは今までかつてほとんどないし、創ることも嫌いではないのだろうと思うのだが、何に対しても執着というものがないのだ、工藤の場合。
コンピューター上でプログラマーがゲームを創るように、工藤はこの業界でスポンサーやタレント、制作陣といったコマを動かして番組というゲームを創り上げている。
そのゲームがどう転ぶかを計算して、プログラミングするだけ。
MBC時代工藤の先輩であった鴻池は、もともと父親がトップを務めていた企業の跡を継ぐべくMBCを辞めたが、まさしく世の中ですらゲーム感覚で動かそうとしている男で、鴻池に翻弄された過去がある良太は実際鴻池に対してあまりいい印象はない。
だが、工藤もある意味鴻池の後継といえるところがあるのは確かだろう。
問題は、だからゲームを創ることはいいが、それに付随する宴会やパーティ、スポンサーの接待など、工藤は実は大嫌いで、特に宴会などどんな大事な相手であれ、すっぽかすことなど意に介さないのだと良太も身にしみてわかってきたことだ。
にしたって、自分の会社の宴会くらいちゃんと出ろよ、と言いたくなるのが、年末のパーティだ。
関係業者を招くねぎらいの忘年会なのだが、一分も持たないスピーチのあとは、忙しいと言ってあとを良太に任せ、さっさと消えてしまう。
まだ会社に入ったばかりの頃、言葉さえ無理やり頭に叩き込まされて向かったパリでのデザイナーマルローのパーティの時も、工藤は忙しくて遅れてきたと思っていたのだが、今思えば、遅く現れて早く帰るという、工藤のパーティ嫌いが一番大きな要因ではなかったかと。
「夕方まで上にいる。何かあったら呼んでくれ」
良太はどうやら少しは休むらしいと工藤を見送った。
いつだったか、良太が社長室をノックしても返事がないのでドアを開けて入ると、デスクには人影がなく、いないのかと思ったら、ソファに長い脚が見えた。
腕組みをして眉間に皺を寄せたまま、目を閉じている工藤は寝ているようだった。
その時も海外から帰ったばかりでその夜、一つ打ち合わせが入っていた。
良太はそっとまたドアを閉めてオフィスの自分のデスクに戻ったのだが。
いい年なんだから、もうちっと自分の身体いたわれって。
わかってきたことはもう一つある。
ドキュメントの番組作りに対しては、MBC時代からの悪友でフリーとなった今は、好きなときにバックパック一つ背負って世界の果てまでも行ってしまうという、ディレクター下柳同様、結構熱いものをもっているらしいことだ。
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