卒業2

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 あの二年の終わりの面談の時も、担任の加藤の前でカムフラージュしたつもりが最後には変装とかすっかり忘れていた美月である。
 卒業式もご愛嬌で眼鏡をかけていたが、傍にいた啓太の母親と何やら意気投合したようで、写真を撮りあったりして素に戻っていた。
「でも何といっても成瀬くん、カッコよかったわよ、スピーチ! 惚れ直しちゃったわ!」
 百合江が卒業式を思い出してまたぞろハートマークを飛ばしてきた。
「スピーチって答辞だろうが! んなとこでぶりっ子してんじゃねぇ!」
 すかさず力が訂正する。
「いや、確かに、佑人、最高にりりしかったぜ? しかもカンペなしだぜ? それだけでおおおって場内どよめいてたし。ってか、答辞なんか引き受けるとは思わねぇじゃん」
 坂本がうんうんと一人頷く。
「しかもしかも、いっつもぼそぼそって言ってたやつが、よく通るクリアな声でさ!」
「ほんっと別人みてぇだった!」
 東山までが声を大にした。
「別人って、まあ、開き直っただけだよ、最後だしね」
 佑人は苦笑した。
 開き直りといえばそうだった。
 今までの佑人なら、担任の加藤から答辞を打診された時に即座に断っていただろう。
 そんな目立つことをやりたくはないと。
 けれどもういいんじゃないかと思ったのだ。
 最後ということもあるが、この仲間たちと一緒に行動を共にするうちに、自分が取る行動に必要以上にピリピリしていたことがバカバカしくなってきた。
 力が前に言ったように、周りにバリヤを張って、自分自身をがんじがらめにすることが、美月や自分を心配してくれた家族のためになることだろうかと。
 少なくともあの経験をしたことで、いや、力やみんなと関わるようになって、あの頃よりは世の中がわかるようになったし、答辞は自分自身に立ち返って自分の言葉できっぱりできた、と佑人は思う。
 それにしても南澤に入ったことがよかったと思える日がくるなんて。
「成瀬、このケーキすんげくうめぇ!」
 そう言って啓太が佑人の皿に同じケーキを取ってくれる。
「ありがと」
 よくもまあ、こんな素直なままここまで育ったやつがいるものだと佑人は啓太を見て改めて思う。
 この仲間を集めたのは、実はこの啓太なのだ。
 そのうち甲本の母親がやってきて百合江とひとしきりバカ息子談義をしていると、美月と啓太の母親がすっかり昔からの友達のようにおしゃべりをしながら現れた。
 東山の母親も出勤するまで少し時間があるからと、東山の妹、美沙を連れてやってきたが、甲本の母親や百合江とはすぐに打ち解けて店内は一層賑わいだ。
「加藤のやつ、ちょっと涙ぐんでやんの」
「そらお前、おつむがイマイチのワルばっかだと思ってたら、想定外のことをやらかしてくれるもんだから感慨もひとしおってこと」
 東山と坂本が笑いあう。
 夕闇が迫る頃までいた保護者らが徐々に帰り始め、やがて百合江も店があるからとカフェを出て行くと店内はクールダウンし、入れ替わりのように犬連れの客が入ってきた。
 そのうち啓太が進学するデザイン学校のことを佑人に説明し始めたのだが、仲良さげに笑っている二人をチラチラ見ながら、落ち着かないようすだった力が、柱時計が五時を告げるといきなり立ち上がった。
「佑人、帰るぞ」
「え?」
 佑人は何気なく見上げたが、眉をひそめたまま力はタローのリードを掴む。

 


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