朝は一面の雪景色だった。
箱根にある沢村の別荘のリビングは一面ガラス張りになっており、雪の庭はまるで絵のような美しさで静かな佇まいを見せていた。
ソファに座ってぼんやりと庭に目を向けていた佐々木だが、本当のところそんな悠長な余裕があるわけではなかった。
わかってはいるのだが、頭も身体も動くことを拒否していた。
「朝メシ、買ってきた」
玄関が開く音が聞こえてすぐ、佐々木を動くのさえ億劫にさせた当の本人がやがて足早にリビングに入ってきた。
提げていたコンビニの袋をテーブルに置くと、沢村はいくつかのサンドイッチ、調理パン、おにぎりとポカリスエットやお茶などのペットボトルを中から取り出した。
「好きな物食べててくれ。コーヒー入れてくる」
「ああ」
それだけしか言葉を発しない佐々木の顔色を伺うように見て、沢村はキッチンへと向かった。
昨夜は半分放心状態のようだった佐々木は沢村に抱えられるようにして風呂に入り、その後はまさしく泥のように眠ってしまった。
たまりきっていた仕事の疲れもあったろうが、どちらかというと精神的な疲れの方が勝っていたかもしれない。
さらに昨日一日中沢村によって疲れさせられた身体はまだ細胞が覚醒していないようだ。
頭の中も思考能力が半分までも回復していない。
それもこれも何もかもあの男のせいだ。
キッチンでいそいそと嬉しそうに湯を沸かしたりしている能天気な男の。
あのアホ!! やりたい放題やりよって!!
それだけははっきりしていて、しかもそんな男をうっかり許してしまった自分にも佐々木はイラついて眉をひそめた。
せや、オフィスもきちんと掃除して、仕事納めくらいせんとあかん。
独立して初めての年やいうのに、何や、このテイタラクは。
佐々木の頭に、ようやくやらなくてはならないことリストがズラズラと並び始める。
その前に、浩輔からジャケットや携帯とバッグを受け取らなければならないことを思い出して、どんな顔をして会えばいいのかを考えるだけで頭が痛くなる。
直子のことも同じくだ。
ただ何か重要なことを忘れている気がして、サンドイッチを齧りながら佐々木は動かない脳ミソを何とか動かそうと必死になった。
「掃除はおばちゃんに頼んでおくから、ゴミなんか袋にまとめとけばいいし」
向かいで能天気な男が呑気そうにそう口にしたその時、佐々木は急に立ち上がった。
「どうした?」
「掃除! 大掃除や、今日!!」
業者を頼んではいたものの、佐々木がいないなど言語道断。
母親の鬼の形相が目に浮かんで、佐々木は大きなため息を吐いた。
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