「てっきり大掃除のことを忘れはったかと思いましたよ」
沢村がひたすら車を飛ばして、一番町の佐々木の家に着いたのはかろうじて十一時前だった。
「お掃除屋さんが先ほどからいらして、母屋のお台所をやっていただいているとこです。いくら忙しくても年の終わりはきっちり仕事のけじめをつけるのは当たり前のことです。それでそちらさんも掃除をお願いしている方ですの? 居間の方からすぐに取り掛かっていただきなさい」
顔を見せるなり母の淑子にまくしたてられて、佐々木は言葉を挟むこともできず、最後まで拝聴するしかなかった。
「あ、いや、彼は……」
「居間ですね、早速やります、力仕事でも何でもおっしゃってください。あ、沢村と申します。失礼します」
成り行き上、沢村に送ってもらったものの門の前で降ろしてくれという佐々木を無視して、一緒についてきた沢村を何と紹介したものかと迷いながら口にする佐々木の横から、張り切った声で淑子に受け答えした沢村はいそいそと上がりかまちの前に脱いだショートブーツを揃えている。
「え、おい…」
いったいどういうつもりだと睨みつける佐々木に気づかないような顔をして沢村は廊下に立った。
「こちらですか?」
「お掃除用具はないのですか? 先ほどいらした方々はちゃんと持参されましたよ」
淑子は自分より遥かに大きな沢村を見上げながらも、文句を告げる。
「あ、だからお母さん、沢村はえっと、仕事上の知り合いで………」
「おや、そうなの? お道具は仲田さんに聞かはったらよろしい。ほな、頼みましたよ」
背を向けて和室に向かう淑子にとっては、沢村がどういう人間であれ、掃除をしてくれればいいわけだ。
とりあえうは母の怒りを何とか最低限におさえられたところで、佐々木は仕方なく居間の掃除に取り掛かった。
「あ、若先生、お昼はどういたしましょう? いつものお蕎麦を人数分でよろしいでしょうか?」
しばらくして台所掃除を終えた仲田さんが居間へやってくると、佐々木を見つけてこそっと言った。
ハウスキーパーの仲田はこのうちで仕事を始めてから淑子に茶道を指南するようになったため、佐々木のことを若先生と呼ぶようになって久しい。
いつもは蕎麦の出前を頼むのだが、今回は業者二人の上に沢村がいるので、どうしたものかと思ったようだ。
佐々木と沢村はちょうど掃除を終えてテレビやソファなどを元に戻し終えたところだったが、「そういえば、そろそろお昼ですね、手伝いますよ」と沢村が仲田さんに声をかけ、一緒に台所に行ってしまった。
結局沢村が気前よく出前を頼んだため、蕎麦ではなく特上の寿司がテーブルに並ぶ豪勢な昼食となった。
仲田さんや掃除の業者二人は台所で昼を取ることになったが、こちらにも同じものが並んだので大喜びである。
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