デジャビュ?3

back  next  top  Novels


「手ぶらでお伺いしたので、昼はご馳走させてください」
 無駄ににこやかに、沢村は淑子に言った。
 淑子にしても、「大きな人がいてるとはかどるわ」などと、沢村を重宝に使った。
 何せ、居間に戻ってきては、ああしろこうしろという淑子に文句ひとつ言わず、はい、はい、と愛想よく動き、昨年は仲田と佐々木二人でよろけながらやっとの思いで動かした重いソファを佐々木が拍子抜けするほどひょいと軽々と持ち上げるわ、高いところでも難なく処理するわ、沢村が何かとてきぱきとこなしたお陰で、去年のほぼ半分ほどの時間で作業が進んだ。
 淑子が佐々木に拭き掃除や重そうな物を動かすようなことを指図しようものなら、それを聞きつけて、すかさず「あ、俺やりましょう」と買って出る。
 どうやら佐々木の身体を労わってのことらしいが、プロの選手をそんなことに使ってはなどという気遣いも、今の佐々木にしてみればどこぞへ飛んでしまっていて、あたりまえだ、と心の中で呟いた。
 肉体労働の後の寿司は確かに美味かったが、居間のソファセットのテーブルに寿司の器をどんと置き、沢村と佐々木だけならいいが、向かいに淑子が陣取って静かに寿司を食しているという図は、佐々木にとっては、一体全体何がどうなっとるんや? 的なカオスな状況だった。
 いたたまれず、いつにもましてさっさと食べ終えた佐々木がお茶を入れ替えようとキッチンに向かうと、思いもよらず特上寿司にありついた仲田と業者が早速話題にしていたのは当然沢村のことだった。
「さすがプロ野球の選手ですよね、気前いい。でも何で沢村選手がここで掃除の手伝いなんかやってるんです?」
「こちらの若先生のお友達ですって」
「しかし、でかいよな」
「でも噂じゃ随分高飛車で気難しいって話だったけど、本物は全然気さくみたいね」
 彼らはそれなりにプロ意識があるらしく、プロ野球選手の沢村だなどと口に出したり騒いだりすることもなかったが、やはり大抵の日本人なら知っているのかもしれない。
 直子の話だと、沢村はかつてCMなどに出演していたこともあるようだし、高校大学とマスコミに騒がれ、女子アナと付き合っていた頃もワイドショーなどを賑わせていたようだから、野球を見なくても顔と名前くらいは知れているのだろう。
 しかし、本物は気さくみたい、という仲田の見解は残念ながら条件つきなのだ。
 最近はなかったものの、大学時代までは佐々木の取り巻きがやってきてはいかにも気さくそうに、ハイハイと気前よく淑子の機嫌を取るという場面がよくあったものだ。
 淑子の機嫌を取ろうというのは、男女問わず、すなわち佐々木に気に入られたいがために、である。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます