当人はもとより話を蹴ったつもりだったらしい。
ところがその小菅課長が沢村の無理難題を了承してしまったのである。
ただし、英報堂とコンペということになったのだが、これがなんとプラグインに決まってしまった。
担当の藤堂は当然のように佐々木にオファーし、契約が成り立ってしまった。
だからこそ、なのだ。
小菅には決して、沢村が付き合っている相手が佐々木だなどと知られてはならないと、佐々木は危惧している。
万が一知られたりしたら、この仕事自体が揺らぎかねないし、沢村の名誉にも関わる。
少なくとも佐々木はそんなことをおくびにも出さずに仕事ができるとは思う。
だが、明日は沢村と一緒に仕事をすることになる。
とにかく、沢村にそんな素振りはさせないようにしないと。
マスコミでは寡黙なクールガイで知られている沢村だ、よもやそんなことはないだろうとは思うのだが。
夕食はホテルのダイニングで、高級和牛の炭火焼きがメインのディナーとなった。
「藤堂さん、でもこんなリッチなホテルで、リッチな食事で、旅行気分で、いいんですか?」
京都や奈良産の食材をふんだんに使った料理に健啖ぶりを見せ、デザートにチョコレートスフレが出てきた時、良太が言った。
「今更だろう? 美味しい美味しいともうお腹に入っちゃったんだから」
くすくすと藤堂は笑う。
「これだけ小気味いい食べっぷりなら、シェフも喜ぶんじゃないか?」
藤堂も佐々木も何とか食べ終えたものの、良太は並べられた料理を平らげるごとに、二人が一皿を食べ終えるまで携帯に目をやっていた。
行儀が悪いとは思いつつ、コーヒーが目の前に置かれ、スタッフがテーブルを離れると、「打った! やっと最後にバックスクリーン!」と声を上げた。
「沢村? やったね」
藤堂も少し興奮気味に言った。
「逆転サヨナラって、沢村のヤツ、デキ過ぎ!」
「ほんまに?」
佐々木も思わず嬉しさを隠し切れない。
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