夏霞15

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「にしたって、なんでカメラの前だとこう仏頂面なんだよ」
 ほら、と良太は携帯を佐々木の目の前に差し出した。
 ホームベースを踏んだ途端、喜んだチームメイトに取り囲まれ、手洗い祝福を受ける沢村は嘲笑気味な笑みを浮かべている。
「あまんじゃくやな」
 佐々木は敢えて天邪鬼な言葉を口にして画面から離れる。
「八回まで二対一で負けてて、九回裏にツーアウト一、二塁からサヨナラホームランって、ありそうでないシナリオだね」
 良太に携帯を見せられた藤堂が言った。
「これ、明らかに失投でしょ。焦ったな、ピッチャーの井本」
 ホームランの映像を見ながら良太が身につまされる。
「いや、失投を見逃さない沢村も褒めてやらないと」
 藤堂が言った。
「八時半、て、かなり早いゲーム展開」
 良太が時刻を確認する。
 まるで佐々木さんに逢いたい沢村の想いが通じたかのような。
「少し待ってみようか。お腹すかせてると思うし」
 藤堂は実に気配りができる人間だと、佐々木は時折感心しないではない。
 プラグインは元英報堂のエリート営業マンの河崎と藤堂が立ちあげた代理店だが、同じく元英報堂社員で河崎の部下だった西口と三浦の四人で成り立っている。
 ただ、西口浩輔は英報堂をやめて留学し、帰国してからはデザイナーとして佐々木の古巣であるジャストエージェンシーに入社し、佐々木の部下でもあった。
 その後プラグインに引っ張られた後も、佐々木とは師匠と弟子のような関係で、仕事のやり取りもあり、現在に至っている。
 藤堂さんってホイホイしているようにみせかけて、実は人も物事も隅から隅まで知ってて、絶対侮ってはいけない人なんです。
 いつやったか、浩輔、真面目な顔で言うてたもんな。
 突拍子もないことをやったりするところがあるが、はったりではない、計算ずくで動いているのだ。
 しばらく能登に行った時の話や、また良太がケガをして一晩入院した夜の、青山プロダクションでの飲み会の話でコーヒーを飲みながら三人は笑っていた。
 佐々木の携帯が鳴ったのは九時を少し過ぎてからだった。
「ああ、まだダイニングにいてるけど、……わかった、ムリせんように気ぃ付けて」
 

 


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