携帯を切ると、「沢村くん?」と藤堂が聞いた。
「ええ、こっちに向かってるて」
「三十分くらいだっけね」
「ええ」
けど、このホテルに来てもダイニングは十時で終わるし、上のラウンジでは軽食くらいあるやろけど、そんなんで足りるんかいな。
あいつ、こっちのゲームの時は神戸に部屋借りてるとか言うてたよな。
わざわざこっちまで来いへんでも。
遠回りやんか。
逢いたい、と思うのは沢村だけではない。
だが、あくまでも仕事で来ているわけで、佐々木だけ勝手な行動をとるわけにもいかないだろう。
佐々木は少し考え込んでしまった。
「佐々木さん、そろそろ出ましょうか」
ハッと気づくと、そろそろ九時半になろうとしていた。
佐々木は慌てて立ち上がった。
今回はすべて任せろという藤堂に会計も任せてしまったが、部屋にせよ食事にせよ、かなりの出費に違いない。
「な、良太ちゃん」
佐々木は藤堂が会計を済ませている間に、良太の袖を引いてレストランを出た。
「このホテルも食事も、経費ってわけにはいかんやろ? 庶民な俺は気になるんやけど」
「うーん、俺もそう思いましたが、藤堂さんですからね、また何かでお返しすれば」
良太の返答に、佐々木はえっと思う。
「ほな、経費やのうて、藤堂さんが支払いしてるん?」
「いや、さっき藤堂さん黒いカード使ってましたもん」
ブラックカードか。
やっぱな………。
「藤堂さんも河崎さんも、実際働く必要ないくらいなのに、あくせく働いてるから、何も言えませんよね~」
「ほんまや。それに、俺らに足並み揃えてくれるしな~」
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