ほな、最初から、そういうつもりで?
「さっき良太が電話してきてさ、ちゃっかり取材も兼ねてやんの」
ベッドルームにいた時にちょうど良太から電話が入った。
何かと思ったら、取材口調になって、今日のゲームについてとか聞き始めたわけだ。
だが最後に、藤堂が二人で予約してくれていると、良太が言った。
「泊まっちゃっていいってよ」
男二人で泊まったって、別に気にすることなんかないのに、と沢村は思う。
だが、やはり、野球選手の沢村だから、佐々木に気を使わせてしまうのだ。
あらかた食べ終わる頃には、やっと沢村も落ち着いてきた。
シャンパンをゴクゴクと飲み干し、ふう、と息をつく。
佐々木はそんな沢村を見て、くすくすと笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ?」
「いや、ほんまに腹減ってたんやな、思て」
いや、つい初めて会った時のことを思い出したのだ。
えらく大人ぶっていたものだと。
食事もがっつきたいのを堪えていたのかと思うと、自然に笑みが浮かぶ。
気がつくと、眼前にきらめく夜景が広がっている。
こんなん眺めながら、シャンパンとか、まるでお膳立てされたデートやんか。
知らぬ間に、沢村が佐々木の指を握っている。
「逢いたかった」
沢村はまっすぐ佐々木を見つめてくる。
俺も。
佐々木は素直にそう口にできずに笑みを浮かべた。
佐々木にもよくわかっているのだ。
心はとっくに沢村ばかりを追っている。
けれどどこかで、本当にこれでいいのかという後ろめたさがどこか奥の方に忍んでいる。
この男の人生を自分が妙な方向へミスリードしているのではないか。
本来ならこんな夜も可愛い女性とともに過ごすはずなのではなかったのか。
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